意地っ張りなクレヨン

 物置と化していた実家の私の部屋を整理していると、古いクレヨンが出てきました。

 おやこれは。幼稚園くらいの時に使っていたものですね。

 懐かしさに思わず蓋を開けちゃいます。十二色入りのクレヨンですが、どうやら一本失くしてしまったらしく十一色しか揃っていません。

 残りのクレヨンの長さもバラバラです。好きな色と言うものはどんどん使ってしまうもの。幼い私ならなおさらでした。

 一方、使わない色はとことん使われていません。特に、深緑色のクレヨンに至っては使われた形跡がまるでありませんでした。

 そのクレヨンをひょいと取り上げてみます。改めて見てみると、吸い込まれそうな深い緑です。何だか年月を経て深みを増したような。きっと気のせいなんでしょうけどね。

 かつての私は赤や青やオレンジと言った、派手な色ばかり使っていたようなので、この深緑色のクレヨンの魅力にはとんと気づいていなかったのでしょう。


 私はその深緑色を紙の上でも試したくなりました。手近にあった、これまた懐かしいキャラクターもののメモ帳にクレヨンを滑らせます。


 ――――あら?


 不思議なことに、メモ帳は白いまま。うさぎのキャラクターがこちらを見つめているだけです。

 何度試しても結果は同じ。試しに別のクレヨンを使ってみますと、きれいな青い線が現れました。

 もう一度深緑のクレヨンで描いてみます。さてメモ帳はと言うと、うさぎが笑顔を浮かべ、その下に青い線が引かれているだけです。


 うーむ、このクレヨンも意地になっているのでしょうか。

 諦めてクレヨンを元通りに仕舞った時、「お前になんか、一度だって使われてやるものか!」という声が聞こえた気がしました。

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