都内の雑居ビルで発見された手紙:親愛なる友人へ

――今は亡き古森ふるもり夫人の消息不明となったご子息から、その友人宛てに送られたと思われる手紙から抜粋、再編する。

この手紙は長らく借り手のつかない雑居ビルの一角に届いたらしく、発見が遅れていた。

取り壊しの際の事前調査で見つけられたものである。

送られた友人……以降文中における呼称も含め、Aさんとする……は古森夫人のご子息であることに確信を持ち、内容の一部を夫人に届けたという経過がある。

手元に残した非公開の部分に関しては、友人同士の秘密であると、当編集部のインタビューにAさんは笑って答えていた――





















親愛なる友人へ。


 堅苦しい挨拶はしたくないんだけど、元気にやってる?

いつも愚痴ってた例の彼女とは縁が切れた?

なんて、多分君の事だろうからまだ続いてるんだろうなぁ。

優しいって罪だと思う。

君を見てると特にそう感じるよ。


 突然いなくなってから結構経つけど、会えない友人あてに手紙を書く、ってのも結構緊張するもんだね(笑)

母親にはよく手紙を書いてるのだけど、私がどうなったのか、君まで伝わってるかわからないので事の顛末もちょっと書いておこうと思う。


 ……流行の異世界転移に便乗しちゃった☆

いや、まじなんだって折らないで畳まないで最悪燃やさないで!

見て見ぬふりをするのは優しさだっていうけど、今回に限っては別物だし、黄色い救急車に運ばれたわけでもないから!


 なんか、水たまりみたいなのを夜に飛び越えたら別世界だったのさ。

なんかもやもやが浮かぶ怪しい水たまりを見かけたら、異次元の隙間らしいから飛び越えないようにね!

……同じとこに来れるとは限らないらしいし。


 ああ、神なんていない!

死んでる!

近年よく違う意味で使われてる方のニーチェさんだよ!!

こういう意図しないバグみたいなのの補填って神様からあるもんじゃないの?

謙虚だし女神とは言わないよ!

はげかかった爺さんでもいいよ!

詫びチートはよ!!!


 ……ごめん、取り乱した。

母宛てのを書いた後だからテンションがちょっとおかしいと思う。

でも、楽しくやってるよ。

美人さんちに間借りしてるし、「1人で生計をやりくりしてる」感もあるし、なにより「そっち」で常識だったことがこっちで通じない面白さとかもあるしね。

聞き役に徹してるくらいだけど、「職業として聞く」のは珍しいみたい。

告解室とか占い師に近いところはあるかもね。

……こっち教会とか無いみたいだし、占い師も「そっち」に近い神頼み的なものみたいだし。


 いや、基本悩みというか相談も脳筋なんだけどね。

こないだは間借りさせてくれてる美人さんに「最近の新人は……」ってぶーぶー言われたし。

半分愚痴られ仕事になってるよ。


 ……えっと、改まって書くとなると何書いていいか分かんなくなるね(笑)

正直君がこれを受け取って困らないかだけが心配。


 返事が届かないだろうな、って思ってるからそっちの近況も聞きづらいんだけど、気になってるからね。

大学はどう?

教育実習とか、準備してる?

今どんなアニメやってるの?

あ、ちょっと未練かも。


 帰れるかどうかの賭けみたいなのはできるんだけど、こっちの生活も気に入ってるんだよね。

主に母からの鬼電(※編集注 恐らく時間帯を問わずに掛けられてくる電話のこと)とか、アポなし訪問とか、からの勧誘とかないし。

あれ、ほぼ母周りじゃない?


 ……それはさておき、ちょっと人に言えない相談があるんだけど……ちょっと二枚目に書くね。

君以外の人に先に見られるかも、って思うとちょっとあれだけど!(笑)




――以降の内容は著者、及びAさんの意向によって非公開とされている――

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