オアフ島の海岸で発見された手紙 ―秋祭り

――今は亡き古森ふるもり夫人の消息不明となったご子息から、夫人宛てに送られたと思われる手紙から抜粋、再編する。

この手紙はオアフ島に観光に来ていた邦人男性が、波打ち際で発見したものである。

残念なことに海水が滲み、判読できない部分がいくつかあったが、可能な限り適切であると思われる文章を補填している――





















親愛なる母上様へ。


 すっかり季節も秋の様相です。肌寒い日々が続きますがお元気でしょうか。

先日頂いたナスのようなものですが、どうも魔法を使わないと皮が堅くて……私ひとりでは手におえない系の食べ物みたいです。とてもおいしいんですけどね。

さて、以前世界の……水たまり状のなにかについて書きましたが、まだあれを潜る勇気はありません。


 オサとの話については書きましたが(※編集注:オサとのやりとりについての手紙は発見されていない)、どうも踏ん切りがつかないのです。


 親不孝な話かもしれません。

私のことは死んだものとして忘れてくださって結構です。

生還を願って母上様のが激化するのは忍びないですしね。

悪魔にもいないですし現実に疲れてもいないです。

そのレジンをしまってください。

あとよく分からないシールまみれにするのもやめてください。

治る治らないで考えているうちは神離れできませんよ。


 暗い話ばかりでもなんですし、こちらの生活の楽しいことなんかも伝えたいと思います。

元気にやってますので心配は不要です。


 ちょうど昨日、昨日ですよ。

「そちらの世界」でいうお祭りがありまして。

エルフさん達のダベリ場みたいになってる院もお休みして、遊んできてみました。


 収穫祭は村の数少ない収入らしく、皆さん一様に気合をいれておられました。

野菜や野生動物を使った地元料理? ですとか、普段村の関係者しか利用できない温泉の解放とか……。

出店、あるんだなぁなんて思っていたらいつものお姉さんが教えてくれました。

なんでも私以前に来た別の世界の住人の案だそうです。

温泉についても開拓者がいたのだとか……随分日本寄りな世界です(笑)


 近くにあるユニコーンの集落や、ダークエルフの村、他にはデュラハンさんのようなゴースト系の住人まで!

サラダボウル、という言葉を思い出しました。

とにかく多くの種族が入り混じって交流をするらしく……改めて自分がいるのが「そちらの世界」からすれば異世界なのだと色濃く実感できました。

……神様は、おられないようでしたけど。


 私へのリアクションは大別すると3つでした。


1、人間じゃん。初めて見た。絶滅したんじゃないの。段差で転んで死ぬなよ。etc...

 珍しい生き物を見たような反応。

イメージ的にはすぐ死ぬ生き物のようです。

やはり仲間はこの世界にいないのか……なんてちょっと残念。

あとお姉さんに「ペット?」と聞いていたオークさんは根に持つことにしました。

我ながら心が狭い……。

鬼の子供に「ツノ隠してるだけでしょー」って頭触られたりもしました。

マイノリティーになるってこんな感じなのでしょうか。


2、旅人だ。いつ帰るの。どんな世界から来たの。俺ら見てどう思う。etc...

 別の世界から来た人間に対する好奇心。

やっぱり珍しい存在ではあるけど、興味がある方もおられるみたいで。

お姉さんの口コミをきっかけで知ってはいたけど……という方もおられました。

ダークエルフの方ともお姉さんは気さくに話しに行っているようで、そちらからの質問が結構多かったです。


3、飯食うか。一緒に飲んでけよ。いいとこだろ、ここ。etc...

 種族に対して無関心……いい意味での、おおらかさ。

思いのほか、この反応が多かったです。

多種多様な種族が生きる世界だからこそなのでしょうか。

変に気取ったり身構えたりしない反応がありがたかったです。

……一番盛り上がった相手が、竜の中でも高名な方だったと、あとからお姉さんがこっそり聞かせてくれました。

やらかしていないかだけが心配です。



 さて、そんなお祭りでもりあがったこともあって、少し頭が痛いです。

ああ、母上様心配なさらず。人生初の二日酔いというやつです。

霊障とかそんなのではないですし、悪魔に見入られてもいないです。多分。

ちょっと駆け足に書いてしまったので、酔いが醒めてからもう一通、書くことにします。


 おやすみなさい。

母上様もよく休まれますよう。お体にさし障らないようにしてくださいまし。

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