第4話

「次はこの中から、好きなスキルをえらんで下さい」


 お姉さんはリストをわたした。


 セレクトスキルリスト


 初期LV百


 常時BPプラス一万


 常時最大HPブラス二万


 常時最大MPプラス一万


 常時最大SPプラス一万


 常時最大LPプラス千


 全武器LVプラス三十


 技覚醒


 マジック覚醒


 マジック完全合体


 マジック早よみ


 自由連携プラス一


 バトルオーラ


 サブクラス枠プラス一


 サブクラス成長率二倍

 等


 正直、よく分からねえ……


 まずこの数値が、どのくらいの価値があるのか分からないと、なんともいえないな。


 まずこのゲームだかを一回プレイしてから、あらためて選ばせてくれれば良いのによ。


 いちおう、お姉さんにきいてみっか。


「ステータスの意味とかスキルの内容って、どんなのですか?」


「すいません、教えられません……」


 ですよねー。もうなれっこですわ。


 でも公平性の意味ってなんだ……?


 まさか、参加者同士のデスゲームとかじゃないだろうな。


 でも、『世界を救ったら全員』とかって話だから、その可能性はひくいか。


「すいません、このリストのスキルって、いくつもらえるんですか?」


「ひとつです」


 うっそ! たった一個かよ。


 捨てスキルをえらんだらどうすんだよ。


 RPG前提ならここは、無難に初期LV百か?


 でも、もしも最高LVが百だったら、超過分の経験値が無駄になるだろうな。


 それに先輩プレイヤーに、「オレっち、LV百五十でスキルリストのスキルも、一個もってるんだけど、ヤキソバ君ってLV百だけなんすか? そんなんじゃ、オレっちのPTに入れられないっすよ?」


 とか言われちゃったらつれえ……


 そうなったら、引きこもるしかないわ。


 しかし、黙考しつつ、まごつく俺を尻目にお姉さんは――


「あ、まだ、ほかにもリストありますよ?」


 と、いいはなった。


「……ちょっ! お姉さん!」


 俺は声をあらげた。


「はっ、はい! なんでしょう……」


「いえ、何でもです」


 俺は視線をそらす――イスにすわったまま、リストを両腕で胸にかかえ――半身で肩をすくめているお姉さんを、糾弾したくはない。


 すみませんね……家に閉じこもってる期間が長いと、興奮しやすくなる人もいるんですよ。


 ホントごめんなさい……


「これがリストです」


 セレクトアイテムリスト


 魔剣プーワ


 魔剣イハシ


 魔輪ムゴワ


 魔輪アリバー


 魔眼ゴルンゴ

 等


 もういい……もういいんだ……中身のみえない福袋をえらべといわれ――その福袋には縁起わるいことに、すべてに魔と印刷されている……たとえるならそんな感じだな、立派にファンタジーだわこれ……


「お姉さん。もうほかに新しいリストないんですか?」


「えっ」


「実はあったりすると思うんですけど?」


「あります……」


 あんのかーい! お姉さんの手際わるっ!


 お姉さんはペラ紙を、一枚もってきた。


「ラストペーパーです」


 こんな黄ばんで、字がかすれて――角が丸くなって、やぶれかけてる――うっすいわら半紙じゃあ、言われんでも最後ってわかるわ……このあとに紙質のいいのを持ってきたら、お姉さんは相当のかくれゲスでっせ。


 アクティブリスト


 さいしょの所持金が2倍(無利子)


 子供のいない老夫婦の、養子としてスタート


 (異世界の住人側の希望者が、いない場合があります)


 金持ちの養子としてスタート(お金がない場合があります)


 宿泊代の永久無料のクーポン券。


 村人からおうえんメッセージが、毎月自宅にとどく。


 クノン村のミミルさんがかわいい。


 転生前の記憶を、引きついでスタート。

 等


 うわあ……


 なんか会議とかで意見をあつめて、ボツになったものを、もったいないからって、あつめて形にしちゃったみたいな、そんなかんじだな……


 ミミルさんの部分とか書類のらん外とかに、ねむけ眼で走りがきしたものを、あまあまのチェック体制で、アイデアのひとつとカウントし、間違ってそのまま会社の資産として、プリントアウトしちゃった――そんな感じだぜ……


 そういう系の仕事したこと、まったくねーけどな!


「しかし、このリストは、むっちゃいらんですね……」


「そうですか……むっちゃですか……」


 お姉さんは肩をおとして目をつむり、ため息をついた。


 お姉さん的には、早く決めてほしいのだろうけれど――ここは慎重にいきたいんだわ。すんまそん。


 ん? 転生前の記憶を引きついでスタート?


「なんども質問すいません。ちょっといいすか?」


 俺は切りだした。


「なんでしょう」


 三つあみのお姉さんは、営業スマイルのままにおうじる。


「ここに『転生前の記憶を引きついでスタート』ってあるんですけど。もしかして俺って、事故のあとに何度も転生してて、それで、その記憶は封印されてるとか、そういうことあります?」


「あの……いえ……そうでは無いんです……」


 お姉さんは視点を下にまげて、困った表情をみせる、困ってる女の子って正直いうと大好きだわ。


「ちょっと、お時間いいですか? 確認してきますので」


 お姉さんは、そういうと立ち上がり。


 俺を残し――暗闇の中へ消えていった。


 そして戻ってくると、おもむろに俺に説明した。


「じつは特殊転生したあと、前世の記憶と、この部屋での記憶はうしなわれるんです。」


「超重要なことじゃないですか! なんで説明してくれなかったんですか!」


「すいません。冒険に差しつかえのあることなので……」


 お姉さんはそういうと、頭をさげた。


 まあ、お姉さんだって、やとわれなんだろうし、糾弾してもしかたねーよな……


 それにしても、冒険に差しつかえってなんだ……?


 知識や記憶があれば、それだけ円滑にすすむんじゃねーのか?


 だが決まりは決まりだろう。


 お姉さんにブーたれても意味ねーよな、たぶん。


 俺は選択を決めかねた。


 どうする? これ選んだら強そうなスキルとも、おさらばだぞ。


 でも記憶がなくなったら、二人をさがせないしな。


 そのために、このイベントに参加するってのも、理由のひとつだからな。


 あんなんで二人とお別れとか、俺はみとめねえから!


 そして、俺は決断した。


「俺、この『転生前の記憶を引きついでスタート』にします」


 俺は、意味不明のとくい顔でいった。


「え? 本当に選ぶんですか?」


 お姉さんは困惑している。


 ――というか焦燥している。なんでだ?


 別に俺ひとり、ちょっと弱い状態でプレイしても問題なくね?


 これなんかの当たり枠か?


「あ、それと」


「なんですか?」


「これ選ばないと記憶を失うって、おかしくないですか? だって、今は記憶あるから、『世界の危機をすくう』だのって、目的がわかるじゃないですか? でも、記憶がなくなっちゃったら、そういうの分からなくなりますよね?」


 俺がそういうと、お姉さんは笑顔をくずさずに、たんたんといった。


「大丈夫ですよ、深層心理にインプットされていますから、みなさん、その時その時におうじて、それなりに世界をすくおうと、なさってくれます」


「あっ、そうなんすかー。疑問がとけてスッキリですわー」


 ――やべえええええ……これやべえよ……かるい精神操作的な、なにかじゃねーか……


 これ絶対に『記憶を引きつぐ』を選ぶべきだわ。


「自分はやっぱり、記憶を引きつぎたいですね、ちょっと目的があるので」


「そうですか……わかりました」


 何かをあきらめたようにお姉さんがいうと、目をつむったまま、ため息をつくように続けていった――


「ではもうひとつ――リストの中から選択してください。さし上げますので……」


 えっ――俺は事態がのみこめず、視線をおよがせた。


「本当にくれるんですか?」


「ええ、さし上げます」


 よし……! 気が変わらないうちに早くもらおう――


 俺は今までの三枚を横にならべ、目を皿のようにしてまよった。


 しかし、『記憶を引きつぐ』をえらぶと、あたえるスキルなどを二つにしなければならない、合理的な理由ってなんだ?


 だって、こんなの記憶を引きつげる分だけ、丸どくじゃねーか。


 スキルを決めてから聞いてみるか。


 スキルで、俺が興味をひかれるのは『技覚醒』だな。『覚醒』という言葉にひかれる。ステータスの割りふりで潜在力にふったし、相乗効果があるやもしれん。


「技覚醒にします。ところで、二つ分もらえることになった理由って何です?」


 貰えるのが決定したであろう、というタイミングを見はからって、俺は質問した。


 お姉さんも、「そんなこと聞くならあげません!」とは、もはや言いにくいだろう。


 もっとも、そういう決定事項を、自分ひとりの判断でかえる人には、みえないのだが。


「全部は話せませんが理由のひとつとしては、クレームが非常におおいんです……ダントツで……」


 そりゃそうだろう。


 ここを仮に転生の部屋としょうするなら、『転生の部屋での記憶が存在するのが、記憶を引きついだ人だけ』なのだから。


 記憶を引きつがなかった人が、もらったスキルやアイテムに不備や不満があっても、「転生の部屋の奴がつまんねーもんを中身をみせずによこしたからだ!」とはならない。


 記憶を引きついだ人に、「お前のそのスキルやアイテムが役にたたないのって、転生の部屋のやつらのせいじゃね?」と、指摘されて、はじめて怒ることができるわけだ。


 ――しかし、あくまでも自分で選んだのに、文句をいっている訳なのだから。やはり正当性はグレーであって、これはクレーマーの一種といえるのかもしれない。


 そして、俺はクレーマーにならないであろうことに、幸運を感じていた。


 先発隊の犠牲は、ムダにしないぜ!


「あとは転生するだけです――このとびらに入ってください」


 お姉さんは暗闇に右手をさし入れ、うでを回した。


 かるい音が部屋にひびき、暗闇にたてに光線がはしると。


 光が部屋全体をおおい、俺はさそわれたように吸いこまれていった――

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