魔王からの招待状②




 行くべきか、行かざるべきか――。


 一人でさんざん悩んだ末、結局要は三時五十分に家から一番近い私鉄の駅の西口に立っていた。

 ステッキがない今、要に戦う力はない。

 そんな状況で魔王と会うのは危ない気もしたが、要は魔王とドリーム5は何が目的で戦っているのかを知りたかったのだ。


(それに、落ちたときに庇ってくれたような人だし)


 危険な目に遭うとは思えない……というのはいささか楽観的か。


 要は胸元のリボンを直し、深呼吸した。

 着ていく服に困ったが、初対面の時と同じ聖カタリナ女学院の制服を選んだ。なぜなら要の私服はカジュアルなものが多いからだ。


(たぶんこの服のほうが強い)


 脳裏に浮かぶのは“魔王は女性が苦手”というタマの言葉だった。要自身、前回の戦闘の経験からして、女の子らしい服装のほうが魔王は攻撃しにくいだろうと考えている。


 すでに名前と家が知られているのだ。今更学校がバレたところで問題あるまい。

 そう思い覚悟を決め直したとき、背後から声が掛かった。


「細川さん」

「はいぃっ!」


(来たっ!)


 聞き覚えのある声に呼ばれ、身体ごと振り返った要はそのままの姿勢で固まった。


 現れた魔王はTシャツにジーパンだった。


「…………」


 いろいろな衝撃が重なり絶句した要だったが、魔王も言葉をなくしたように動きを止めた。

 要の装いを見て、頬を染めたかと思うとおもむろに視線を外したのだ。


(制服か!)


 要の心理作戦が功を奏したらしい。


「じゃ、じゃあ、い、行こうか」


 ぎくしゃくと右手右足を出す様を見守り、要は身の安全を確信した。

 魔王は駅構内に入り、行き先も言わずに券売機にお金を入れる。


(電車に乗るのか)


 駅で待ち合わせたからには、そういうことなのだろう。

 おとなしく行き先の指定を待っていると、突然「はい」と切符を手渡された。


「あ、お金を……」


 驚いて財布を出そうとすると、魔王の目が丸くなる。次いで、黒目がちな目でにっこりと微笑まれた。


「いや、呼んだのは俺の方だからいいよ。東湊市との境まで行くからちょっと遠いんだ」

「優しい!?」

「え?」

「いえ、なんでもないです」


 なんという紳士だ。同級生ではありえない行動に、要は遠慮がちに切符を受け取った。

 だが魔王は要が怒っていると勘違いしたのか、やけに焦りながら身を屈める。


「ごめん、行き先言うのが遅くて! 七時ぐらいにはこの駅に戻れると思うから、一緒に来てもらってもいいかな? き、緊張して言うの忘れてた……!」


 赤くなった顔を隠すように拳を当てて慌てる青年を、要は何とも言えない表情で見上げてしまった。


(この間とすっごい印象が違う……。なんでこの人、魔王なんだろ?)


 自分が巻き込まれたことについて知るため誘いに乗ったのだが、余計に謎が深まってしまった。


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