Re:Cover

神崎 瞳子

1

薄汚れた部屋の中

私は人の名前を呼ぶ。


記憶も感情も曖昧

あの頃の私は

一体何をしていたのだろうか?


◇◇◇


殴られるような鈍痛を感じて

目が覚める朝。


この頃ずっと同じ夢を見ている。


だが

気にせず


ブラウスを羽織り


リボンを結んで


ドロワーズにパニエを重ねて


今日は全身カメオ柄で臙脂色の

ジャンパースカートに身を包んだ。


そして更にそれに白衣を重ねる。

これで身支度は完成。


私の名前はマユラ・ローゼス。

一身上の都合で一度死に、

『心の修正所』

で働いている。


『心の修正所』とは。

所謂

厳しい現代社会では

心病める者が多すぎる。

心病めるものによって

更に増加していくー。


という事で特に顕著に

心病める者を連れてきて

治療するという

病院の事である。


そして私はここのドクター。

だから白衣を纏っているのだ。


他の者は

一般の病院で使われているような

衣類を身につけているが

私にはポリシーがあるので

特別に許可して貰っている。


◇◇◇


『もう大丈夫ですね。

帰る準備をしてください。

ではこれからもお大事に。』


マユラは患者に対して

素っ気ない言葉を発して

病室を出ていった。


彼女が自室に帰っていくと

看護師達が集まって話を始めた。


『マユラ先生って

変わってるわよねぇ。』


『でも、他のどの先生よりも施術が的確だーって院長先生も仰ってたわ。』


『あの格好してるんですもの。

ちゃんと仕事はできないと

ダメよねぇ。』


看護師のリーダーに見つかるまで

彼女の噂話は続いた……


◇◇◇


私、マユラには

楽しみがある。


自分で言うのも何だが

仏頂面で冷淡で変わっているが

そんな私にだって

楽しみがある。


『心の修正所』は

一度死亡した人々が働いているが、

皆蘇生されている。

つまり生きているという事だ。


だから私はよく院長にお願いをして

月に一度

現世に戻っている。


例えば、

普段着る

ゴシックな服を買ったり、

ふと夢で思い出した

死ぬ前に

やりたかったことをやったり、

困っている人を助けたりだ。


最後のことは

やりたくてやっている訳

ではないが、

できるだけ『心の修正所』に

入院する人を減らしたいと

思っているからだ。


減ってしまったら

私はまた魂を失ってしまう、

けれども

それでもいいと思っている。


私が未だに働かなればいけないのは


『心の修正所』は

自殺者が働くところだ。


つまり


『罪償い』


という訳だ。

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