とてつもない情報量のSF×ファンタジー、その巨作の一欠片

銀河帝国の名将として、かつて宇宙にその名を轟かせた元帥ルベリウス。しかし退役したはずの彼は、まるで未開の辺境惑星のような、ファンタジー世界のような場所で目を覚ます。
周囲から孤立している少女アンジェリカの『守護天使』として召喚され、時に周りから侮られつつ、時に周囲の理解を超えるほどの力で、新たな戦場に赴く――。

ワケも分からず召喚された少年(中身は老人)が、ツンツンした性格のヒロインに使役されていくという構図は『ゼロの使い魔』を思わせます。タイトルやキャッチコピー、そして前半のプロットなども、昨今のラノベの流行りや『なろう系』を感じさせる内容でした。

しかしこの作品の肝はそこではなく、膨大とも呼べるほどの設定の量だと思います。
SF的な用語や設定、そして魔術や魔法といったファンタジー方面でも、緻密かつ壮大に世界観が練り込まれています。これらの情報を全て把握している作者さんの脳内は、アカシック・レコードにアクセスしているのかと疑ってしまいたくなるほどでした。
魔術と科学、相反するように見える二つの要素を作品に破綻なく組み込んでおり、まさに『ひとつの宇宙』の全容を覗くような、それでいて『その宇宙もまた無数にある宇宙全体の極わずかな範囲でしかない』と感じさせられ圧倒される、圧巻のボリュームでした。

ただ逆を言えば、その設定が多すぎて、宇宙空間に投げ出されて漂流したような気持ちにもなりました。
小説作りの基本ではあるのですが、読者はストーリーを読みにきているのであって、設定資料集を読み込みたいわけではありません。
ドハマりした作品の設定であれば何時間でも漁れるのですが、読者が作品やキャラを好きになって没入する前に、知識の洪水を浴びせかけるのは、そのまま読者が他所へ流れて消えて行ってしまう原因になります。

とはいえ、アンジェリカがルベリウスとの交流をきっかけに、考えを改めて歩み寄っていく心情描写や展開はとても良かったと思います。
これだけの設定を練り込み、一部後半のような劇的な展開こそが持ち味であるのなら、むしろ一部前半のような『なろう系』を意識して流行に寄せていく必要は、別になかったかなと感じました。
『どっちつかず』になるよりかは、ひとつの方向性に舵を切った方が良いと思います。

しかし本当に壮大な作品であり、そしてこれが作者さんの歴代シリーズの一片であるという事実に、驚嘆するばかりです。