第5話 対コンプレックス (6)

 その凜からこぼれた言葉を亮人は確かに耳で拾った。当たり前だ。絶対に助けるさ。

 このままここでやられたら、所詮七光りで終わってしまう。勇ましくここまで来たのに死にました、そんなの皆から笑い者にされて終わりだ。それじゃあ、その後、ずっと泉亮人は父親の恩恵を受けながら生きただけの存在になる。

 亮人が今やらなければいけない事、この魔物を倒す事。七光りなんて汚名を崩してこいつを倒す事。魔物を殲滅するアシストをする事。凜のアシストをして、凜が刺せなかったとどめをここで刺す。自分にできることを今ここでする。


 ふと、攻撃が止んだ。チャンスはここしかない。電撃、火炎の手が止まったこの瞬間にマシンガンを構えながら後ろ、魔物の居る方向に向けた。その魔物はジャンプをし、亮人らにとどめを刺そうと槍を下ろし始めていた。でも、とどめを刺すのはこっちだ。


――俺は七光りなんかじゃない! 俺は俺の実力で戦い抜くんだ。親父なんか関係ない。ここでとどめを刺すのは紛れもない俺なんだ! 父の七光りなんてコンプレックス、ここで魔物ごと打ち砕いてやる!!――


 床を支えにしてマシンガンの銃口を飛んでくる魔物に向ける。

「ラァァアアアアアアアアアア!!!!」

 一気にトリガーを引く。恐らくやけどを負った背中に、動かない腰、魔物の力を正面から受けた腕。体のあちこちに反動が響いた。それと同じくして火を噴くようにどんどん吐き出される弾丸。それは見事亮人の狙った魔物の頭部へ吸い込まれるように当たっていった。


 とにかく打ち続ける。すると魔物は弾丸の威力に押されて亮人らの少し手前に墜落。床に倒れる魔物に対しひたすら一マガジン分、魔物に打ち込み続けた。それに合わせて踊るように跳ね上がる魔物の体。全て打ち込み終わり、銃口から煙が上がる。


 更に消滅の度合い、透明部分がかなり増えたが、安心できまい。ちらりと見たらさっき床に転がったブレードが目に入り、手に取りながら魔物の上に乗っかる。そのままブレードを立て一気に魔物の体に押し込んだ。

「キシャーーーーー!!」

 魔物はその最後のとどめに断末魔こそ挙げたがそこで沈黙。どんどん体は空気と化すように消滅。最後に床に突き刺さったブレードと打ち込まれた弾丸だけが残った。


「はあ……はあ……はあ……、勝った……。……倒せた……」

 息を整え、最期にため息をつくと一気に床にへたれ込んだ。一気に全身の力が抜け、もう一歩も受けそうにない。そんな亮人の顔を凜は覗いてきた。

「ふふっ」

 そう、笑みを浮かべると最後に口の動きだけでありがとう、そう言った。

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