第5話 対コンプレックス (5)

「キャア!?」

 突如,亮人に庇われ動揺する間もなく、とてつもない衝撃音が鳴り響く。恐らく魔物の電気と炎の攻撃。自分だとは信じたくない悲鳴を思わず上げてしまった。

 なんで、なんで自分が助けられるのだ!? 強くなると決めたはずなのに。なんで今、亮人に守られているのだ!?


 そう言えば、小さい頃、「小さいのによく泣かないね」っておばさんから言われたっけ。親と別れ、おばさん、おじさんと暮らし始めたときだ。その時、確かこう答えた。


「泣いたって強くなれない。泣いたって救えない」

 わずか小学二年生で悟った事だった。でも、その意志の元、泣くことはほとんどなかった。そんな自分をおばさんは強いねって褒めてくれた。


 でも、あの時は違った。いつも強がっている自分を疎ましく思った同級生がいじめて来た時だ。いつものように泣かずにひたすら耐え続けた。ここで泣いたら弱い自分のままだ。だったら泣くものか、泣いた所で何も変わらない。

 だから、むしろ立ち向かった。大勢相手に立ち向かった。強いって言っているくせに負けたけど。でも、これからは負けないために今は泣かない事、これだけは絶対だと思っていた。


 おばさんはそんな凜の頬を叩いた。あたしを叩いた。こう言って。

「おばさんがいるのだから、助けを呼びなさい。凜ちゃんひとりじゃないんだよ? 確か泣いても強くはなれないよ。でも、泣いたっていいじゃない。別に凜ちゃんが幼いから泣いていいんじゃないよ。ただ、強くなる方法は一つじゃないってこと。

 泣いたら……、助けが来るかもしれないでしょ? もちろん泣いたら絶対助けて貰えるなんて甘い世界じゃないと思う。自分が強くなるのは間違っていないし、えらい事。でも、たまには自分だけじゃなく、誰かの強さを、助けを求めてもいいんじゃないかい?」


 あの言葉、あの時は何もわからなかった。泣いたって助けて貰えるとは限らないのにそれにすがって泣くなんて。強い自分になるのに泣く必要なんて。

 でも、今、その言葉、分かる気がする。いくら強くなっても自分一人だけじゃすべてこなせるなんて保証はどこにもなかった。そんな中、もし、手を貸そうとしてくれる、手を伸ばそうとしてくれる人がいたらそれにすがってもいいのかな。自分以外に頼ってもいいのかな。それって親を見殺しにしてしまった弱い自分に戻る事じゃないのかな?


――強い凜ちゃんに、おばさんが付いたら“最強”だね――


 その時、確かに凜の目が濡れはじめた。やがて一つの雫となっていき、凜の目、瞼から離れていき、床に落ちた。

「…………助けて…………」

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