第17話 陽ダマリノ庭3

 茶色い管狐は鬼姫から聞かされた、そのときの対処法を舞姫に伝えた。白い管狐達は、流石に話が出来すぎじゃないか、とは言うものの、

「……分かった。やってみる」

 舞姫はその方法に賭けてみることにした。

『――そのときが来たならば』

 涙を拭って膝立ちになった彼女は、久遠の青白い顔を両手で持ち、

『――我の子孫が久遠殿に接吻すればよいのである』

 ゆっくりとその唇に自分の唇を重ね合わせた。

 

 久遠の妖力で作られた舞姫の心臓は、彼女が妖力を供給しないと半日で止まってしまう。

 ただ供給するだけでもかなり消耗する上に、心配性過ぎる久遠は過剰に舞姫へ妖力を分け与えていた。

 そのせいで久遠の持つ膨大なそれが底をついた結果、彼女は瀕死の状態に陥ることになったのだった。


 ため込まれた妖力が唇を通して久遠に返り、舞姫に顕現していた耳と尻尾が消えた。

「う……、ん……?」

 九尾状態に戻った久遠の指先がぴくりと動き、続いてその瞼が開く。

「……舞姫? どうしたのじゃ?」

 ゆるゆると半身を起こした久遠は、傍らで鼻を真っ赤にしている舞姫の頬に触れた。

「久遠……、良かったぁ……」

 それを見て、止まっていた涙が再びあふれ出し、舞姫は久遠の胸で泣きじゃくる。管狐達は万歳三唱し、お互いに抱き合ったりしていた。

「な、何じゃ何じゃ?」

 状況がいまいち飲み込めていない久遠は、目をぱちくりさせていた。

 茶色の管狐から大まかな説明を受けた久遠は、

「そうかそうか。心配掛けてすまんかったのう、舞姫」

 グスグスと嗚咽を漏らす舞姫の背中をさすりつつ、申し訳なさそうにそう言った。

「……どこにも、行かないで……、久遠……」

 すると、消え入りそうな声で詰まりながら、舞姫はそう懇願するように言う。

「うむ。ずっと一緒じゃぞ」

 久遠は何度も何度も頷いて、何よりも愛しい少女を抱きしめた。

 ややあって。

 舞姫の気持ちが落ち着いてから、久遠は彼女に妖力を再び分け与えた。

「さてと」

 それから、膝の上にいた舞姫を床に下ろすと、懐から矢立やだてと白紙の短冊を取り出して式符を作った。

 舞姫に少し離れるように言い、久遠は術の詠唱を始める。それを終えた途端、彼女を包むように白い煙がポンと出た。

「うむ、ざっとこんなもんじゃな」

 それが消えると、舞姫とほとんど同じ身長で幼女体型の久遠がいた。8本あった尻尾は一本だけになり、サイズも小さくなっていた。

「……かっ」

「?」

 その姿を見た舞姫はすっくと立ち上がり、

「かわいい!」

 がっしりと抱きしめて床に押し倒した。

「のじゃあ~!」

 目を輝かせている彼女に耳や尻尾をいじられ、久遠はものすごく幸せそうな様子で、なされるがままになっていた。

 そんな二人がいちゃつく様子を見て、茶色の管狐は肩をすくめるような動きをした。

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狐ノ巫女 ~現代妖狐奇譚~ 赤魂緋鯉 @Red_Soul031

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