レーテ編

47

 ヘルモはそれでも元に戻す事はできないか、と廊下を歩きながらレーテを見るが、いまのレーテはそれまでのレーテの思い出たちが無数に分裂して、それぞれの自我が同時に存在するような、複雑な崩壊をしていた。その中で素直な少女レーティアンヌとしての自我だけが統一され、レーテの目はちょうちょうでも見つめてるかのようにキラキラと輝いていた。左肩の堕魔人の部分もぐねぐねと蠢きながら。




 私はレーテ。聖戦士と言われたレーテ。


 私はレーティアンヌ。メーラン・サングリスとアルナの娘。


 アルナは堕魔人になった。


 堕魔人を眠らせ人格再定義人に再定義させてもらうのが私の勤め。


 人格再定義人アラスタは死んだ。


 オドも死んだ。


 クリシェ。マルカレン。スニングス。最近関わった堕魔人たちだ。


 私も堕魔人だ。


 ザンドルフが私を唆した。


 エゴ。


 カラは私を一度殺した。


 カラは私を育てた。


 ファレンが私を育てた。


 ファレンはゲゲレゲに殺された。


 ゲゲレゲ。ヘルモ。


 ヘルモは今私をカラの元に連れている。前とはすっかり変わった様子である。


 ヘルモがもっているのは親友の胎児。


 胎児たちは私の秘密の基地にいる。


 胎児の自我はどこにあるのだろう。いつも話し相手になっていた。あれは神なのだろうか。


 神。


 死。

 

 私は二度死んだ。でも三たび生きている。


 今の私は誰であろう。


 薄暗い廊下だ。怖い。


 おうちにかえりたい。


 ファレンに会いたい。


 この折れた傘が、どこかにつれていってくれないかなあ。






 今のレーテにカラを殺せるのか、ヘルモは全く分からなかった。なぜ自分がこんなレーテをカラのもとに連れて行くのかわからなかった。もしかしたら無残に殺されるかもしれない。でも、レーテの生前の使命を、どうにかして手伝わなきゃいけない・・・、そんな気がした。

 廊下には多数、ネジネジだった人たちが横たわって眠っているのが見えた。ネジネジが死んでもなお起き上がらないのだから、彼らは永久に起き上がる事はないだろう。ひょっとしてレーテも。

 自分がレーテを殺す妄想に取り付かれたのは、このことを予感していたのかもしれない。とヘルモはふと気がついて、ヘルモは両手をこめかみに当てた。レーテはやがて死ぬ。だから殺すべきという誤解をした。そのことを考えて一気に、青ざめるのが感じた。

 もうこの門はカラ以外に攻撃する者はいないようである。ネジネジたちが急に倒れて皆恐れを成したのだろうか。カラの王室にたどり着く。

 ヘルモはその扉を手で押した。

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