部活と思い出と未来
椿叶
第1話
「田中美咲さんだよね?」
高校入学して、少しした後の昼休み。友達とお弁当を食べていた美咲は一人の上級生に話し掛けられた。
「そうですけど」
かわいらしい上級生だ。色素の薄い髪は肩より短く切り揃えられていて、花の飾りがついたヘアピンがつけられている。目元もぱっちりしていて、女の子らしい雰囲気があった。でも、それだけじゃなくて、勝ち気そうな雰囲気も同時にある。
部活の勧誘かな。剣道部の。この時期に上級生が一年生の教室に来る理由って言ったらこれしかない。
「剣道部入るとか、考えたりする?」
「……」
部活については何も考えていなかった。いや、全く考えていなかった訳ではないが、答えを出していなかったのだ。
「今は、特に」
「そっかあ」
上級生はちょっと残念そうな顔をした。
「でも、見学来てくれる?」
断る理由は無かった。
「あ、はい」
「じゃあ、放課後待ってるね」
上級生は教室から出て行った。
ふう、と一息ついて、箸を持ち直すと今度は友達の由紀に話し掛けられた。
「美咲ちゃん、剣道部だったのかあ」
「言ったと思うんだけど」
「え、そうだっけ。ごめん」
由紀はこの学校で出来た最初の友達だ。席が近かったため話し掛けてみたところ、気が合ったのだった。
「強かったの?」
「んー。最後の総体で、個人で県行った。二回戦で負けたけど」
「県出たの!? すごいじゃん!!」
「別に」
「そんな謙遜することないじゃん」
「だから、ホントにたいしたことないんだって」
美咲は嫌そうな顔をしてみせた。
確かに個人で県は出たけれど……。一回戦を勝ったのだって、結構運に助けられてたし、二回戦は……、そう、全国へ行った人に負けたのだ。圧倒的な実力差だった。美咲も今までになく良い試合だったと思っている。それでも、敵わなかった。試合後、「ああ、しょうがない」と思うほどに。
「剣道部入らないの?」
「考えてない」
「もったいないよ」
「そう?」
あの実力差で負けたせいか、逆にふんぎりがついてしまったのかもしれない。剣道にたいして、あまり思い残しとか、後悔とか、そういう思いがほとんどないのだ。だから、やりたいのか、と聞かれても、よく分からない。
「じゃあ、由紀は? えっと、卓球だっけ?」
「うん。今日は卓球の見学行くよ」
「そうなんだ」
「美咲ちゃんは剣道部行くんだよね」
「まあ、ね」
曖昧に返事をした。
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