006.対するは二百強

 俺の走る速度が余りにも速いのか?

 時折聞こえるヒッやキャッというリラの声。

 それでも彼女は文句一つ言わない。


 彼女は、村への道案内を放棄する事もなく耐え続けた。

 予想以上に村までの距離はあるようだ。

 リラ一人で良くあそこまで辿り着けたな。


 そして見えてきた村。

 壁に囲まれており、その壁の外側には無数の動く緑。

 その数は二百は超えてそうだ。


 彼らが醜小鬼(アグリゴブリン)か。

 軍隊のように全員が武装している。

 ただの雑魚モンスターってわけでもなさそうだ。


 こちらに気付いた奴らが向ってくる。

 リラをおぶったまま戦うのは得策ではない。


「リラしばらく口を閉じてろ」


 両足に力を溜めて開放。

 空を飛ぶかのように空中を疾走する俺とリラ。

 悲鳴をあげそうになりながらも、彼女は堪えているようだ。


 壁を越えて村の内側へ。

 時折風の魔法で方向を調整し、誤って民家に突っ込まないようにする。

 そして、辿り着いた先は村の中心部のようだ。

 村人らしき人が数人おり、それぞれが手に鎌や鍬を持っている。


 彼らから少し離れた所に着地した俺達。

 着地する寸前に、下に向って風を起して極力衝撃を和らげた。

 その影響で、周囲に土煙が周囲を舞った。


 土煙がある程度収まるまで待つ。

 その間に、何人かが集まってきたのがわかる。

 問いかけるような声が聞こえてきた。


「リラ? それに・・黒髪黒眼?」


 言葉を発したのは少女。

 リラを少し大きくしたきつめな感じ。

 胸も結構豊かだ。


「ケホケホ、援軍・・連れて・・きた」


「リラをお願いします」


 俺はリラを地面に下ろした。

 村の入口と思われる方へ走り出す。

 後ろの方でさっきのお姉さんや、他の村人らしき人達が何か言ってる。

 罵詈雑言なら後回しだ。


 辿り着いた先、血まみれの傷だらけで片膝をついているテテチさん。

 他に倒れている者も多数。

 敵対している側にも、それなりの被害は出ているようだ。


 村の入口らしきところの頑丈そうな扉。

 豪快に破壊されている。

 外から敵とおぼしき奴らが入ってきていた。

 テテチさん助けようと必死の抵抗をしている。

 しかし、数が違い過ぎる。


「元八戦士団壱隊戦士長テテチ。わずかな戦力でここまで持ちこたえたのはさすがだ。しかし終わりだ」


 醜小鬼(アグリゴブリン)より、少し大柄な奴。

 大斧振り下ろそうとしていた。

 俺は能力を全開放し疾走する。


≪黒牙流一乃太刀突螺(クロガリュウイチノタチトツラ)≫


 疾風怒濤の如く突き抜ける俺。

 大斧の奴を中心に、直線状に放たれた突きの斬撃。

 テテチさん側と敵側の区別がいまいち判断つかないので手加減はした。

 それでも俺の一撃は、背後にあった扉の残骸をも巻き込んで壁に穴を開けていた。

 目の前の状況に、絶望の眼差しから驚愕の眼差しに変わったテテチさん。


「ア・・アキトさん?」


「助けに来た」


「あ・ありがとうございます。し・・しかしどうしてここが?」


「リラが教えてくれた。彼女の頼みだったから。だから感謝するならリラに。それと一度撤退してもらえる? とりあえずあの盾を持ってる奴を倒していくけど。俺にはテテチさんの味方と敵の区別が難しいから」


 伝えるべき事を伝えた俺は、テテチさんの反応も待たずに動き始める。

 味方っぽい中で崩れそうな所の、敵らしきのから潰していく。


「い・壱隊、彼は援軍だ。ここはまかせて一度撤退する」


 容赦なく倒されていく光景に、幾人かが逃げるように出て行った。

 そうしてここにいる奴らは、どうやら一掃する事が出来たようだ。

 中の状況が伝わったのだろう、正面から入ってくる者もいなくなった。


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 道中で気付いてた巨大な奴は、三メートルはあるだろう。

 確認しただけで五体。

 もし一気に攻めてこられれば、村が無事で済むとは思えない。


 テテチさん含めて数名は肩を借りてなんとか撤退していく。

 俺はテテチさんの側まで近づいた。


「味方はこれで全部ですか?」


「アキトさん。は・はいそうです。ここにいる十五名です。一人も死なずに済んだのはあなたのおかげです。ありがとうございます」


「お礼は俺じゃなくてリラに。それはともかくとして、村の外で暴れても問題ないって事ですね」


「え? あ? はい。村人は全員いるはずです。リラも戻ってきているという事なら」


 そこへ、先程のちょっときつそうな、胸の豊かな少女に連れられてリラがやってきた。


「パパ大丈夫?」


 泣きそうな顔のリラ。


「大丈夫だよ。リラがアキトさんを連れて来たおかげで助かった。ありがとな」


 痛みに顔を顰めながらも、リラの頭に手を置いて一撫でしたテテチさん。

 俺もちょっとしたくなったけど自重。


「あーえっと村の皆はちゃんといますか?」


「大丈夫いたよ。ね? リリラ」


「はい。大丈夫です」


「それじゃリラ、リリラさん? 俺が戻るまで、絶対に村の外にでないように村人全員に伝えて下さい。申し訳ないけど、俺は村の人とあいつらの区別があまりつきません。誤って村人に被害を及ぼさない為にもお願いします」


「アキトさん、ま・待って下さい。外には百を超える部隊がいるんですよ?」


 テテチさんが止めるのもご尤もではある。


「倒した分を差し引いても二百はいるでしょうね。それに少なくともオーガみたいな巨大なのも五体はいました」


「正面の扉があっさりと粉砕されたのはその為か」


 比較的傷の少ない戦士の一人がそう呟いた。


「だからこそ、待ちに徹するわけにはいきません。五体が一度に攻め込んでくれば更に被害は拡大します」


「し・しかし・・・」


 テテチさんが食い下がった。


「隊長、先程の彼の戦いぶりを見て思いました。仮に私達のうち、傷が浅い者がいっても、味方か判断し難いのであれば足手まといにしかなりません」


 別の戦士の言葉。

 テテチさん苦渋の表情だ。


「わ・わかりました。でも無理はしないで下さい。私達と少し関わっただけのあなたが命を掛ける必要はありません」


「理由ならありますよ。リラを笑顔にしてあげたいじゃないですか」


「ア・アキトさん・・!?」


 その言葉を聞いたリラの顔が少し赤らんでいる。

 俺は彼女の頭に軽く手を置いてワシャワシャと撫でて上げた。

 嫌がるかもなと思ったが、どちらかというと嬉しそうな表情になっている。


「それじゃ行ってきます」


 何か言いたそうなリラ。

 それはテテチさん達も同様のようだ。

 俺は彼女達を無視して、正面玄関に向かった。


 そして、目の前に展開されている二百強の部隊。

 ほとんどが醜小鬼(アグリゴブリン)のようだ。

 その中には亜種なのか少し違うのもいた。

 オーガみたいな巨大な奴は確認した通り五体。


「人間如きが、この数相手に一人で戦うつもりか? 馬鹿なの? 馬鹿なんでしょ?」


 言葉を発した主が何処にいるかわからない。

 俺はニヤリと笑ってやった。



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 村人達に傷の手当てを受けるテテチ達。

 リラやリリラも手伝っていた。

 手当てが終わり、二人は少し離れた場所で一休みしていた。


「リラが懐くのも何となくわかるような気がする」


 突然のリリラの言葉にリラは慌てた。


「な・懐いてなんかいないもん」


「ふふ。それじゃあ私が懐こうかな?」


「だ・駄目」


「冗談よ。でもちゃんとお話しはしてみたいな」


「うん、無事戻ってきてくれるよね」


「彼の強さはリラが一番知っているんでしょ?」


「う・うん。でもやっぱり心配」


「気持ちはわかるけどね」


「うん、無事戻ってきて欲しい」


 リラは祈るような気持ちでそう呟いた。


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 目の前に立ち並ぶ推定二百強の兵士達。

 こう見ると圧巻だな。

 それをたった一人で相手するわけか。


 さすがに常時全開展開してると、最後まで持つかどうかわかんないな。

 梓を抜き、鞘はその場に突き立てた。

 靴状に能力を開放。


 まずはやっかいそうなオーガみたいな奴から、どうにかしないとだな。

 そんな事を考えていると、弓矢を構えているのがいるじゃないか。

 それもどうやら狙いは俺じゃないみたい。


 村に放つつもりか?

 狙いが村の殲滅なら当然か。

 いや、素直に関心している場合じゃない。


≪黒球(ブラックボール)≫


 壁よりも少し外側から村を覆って行く。

 俺が作り出した防御壁だ。

 村の奧がどこまであるのかわからない。

 完全に覆いつくせているのかは不明だ。


 放たれた矢。

 俺を通り越して村に吸い込まれていく。

 大丈夫だと信じて次の行動に移ろう。


 一番近くにいるオーガっぽい奴に俺は梢の照準を定める。

 梢には普通の銃では有り得ないギミックがある。

 鬼の力を注ぐ事で、既に装填されているエネルギーに上乗せ出来るのだ。

 原理とか詳しい事は良く知らない。


 上限があるのかはわからないので、適当な所でぶっ放した。

 どの程度効果があるのかも未知数だし。

 オーガっぽい奴の頭をあっさり貫通。

 正直撃った俺もびっくりした。

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