第17話 最初のカギ

毎日、大学に行く日はこんな感じだった。


朝、ちゃんと1限に間に合う時間に起きて、支度をする。

でも、あんまりファッションが決まらなくて、あれこれ着替えたりして、うだうだ悩んで、1限に間に合う時間の電車に遅れる。

とりあえず、次の授業に間に合うように行こうかと思って、再びファッションについて悩み始める。

やっとの事で決まったかと思ったら...授業に参加するのは午後になってからだった。

そんな日々が続いた。


何をアホなことやってんだ、とか、たかがファッションごときで、と思うかもしれない。

今のわたしもそう思う。

でも、それでも当時の自分は本気だったんだ。

本気で、まともなファッションじゃないと外にすら出れない。

でないと、またバカにされる。

また、嘲笑される。

また、聞こえるようにダッサいってヤジを飛ばされる。

その恐怖から逃れるため、自分を安心させるため、どうしてもファッションにこだわらなきゃいけない。

オシャレじゃないかもしれない。

どこかにオタクだと思われる要素があるかもしれない。

でも、それでも、できる限りやらないと安心できなかったし、気が済まなかった。

そんな日々が続いた。


でも、大学3年目も終わりにさしかかった頃、あることに気づいた。

自分、もしかしたらファッションを考えるの、コーディネートを組み合わせるのが楽しくなってるのかもしれない...。

無駄に、というべきか...ファッションコーディネートの組み合わせパターンを毎日毎日、数多く考えに考えてた結果、経験値が積み重なっていたのかもしれない。


コーディネートを考えるのが苦じゃなくなってるような気がする。

新しい服を見たとき「これならもっとマシなコーディネートができる...」じゃなくて、「この服ならどんなコーディネートができるだろう?」って考えるようになってる気がする。

ファッションコーディネートのため、雑誌を読んだり考えたりするのがクセになってる気がする。


その気づきが、留年を重ねるだけだった日々から、抜け出す最初のカギになった。

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