帰還

ゴブリンキングの前に普通のゴブリンが8体いる。


「先生、さっき話した通りに!」


「はい!」


俺と先生は二手に別れる。


俺は矢をゴブリンキングに向けて放ち、注意を引く。


「こっちこい!デカブツ!」


と挑発をして先生から注意を逸らす。

ゴブリンキングが手下達に指示を出す、やはりキングまで行くとある程度頭を使ってくる。


ゴブリン達に先生の方を指差し、キングはこっちを指差しゴブリン達は


「グギギ」


と鳴き、先生の方へ走っていた。


多分了解とか言ったのかもしれない。

キングはこっちに1歩1歩と進んでくる。


「当たれ」


と言って矢を放ったものの持ってる棍棒で弾かれる。


『我の魔力を代償にこの者らの心を砕きたまえ ハートブレイク』


そう先生がいや、双葉さんが唱えると走っていたゴブリン達の脚が止まる。

そしてぱぁんと音がし消滅した。


双葉さんがやったのは、自分より格が下の者には効く瞬殺出来る魔法。


格が下とかの定義は分からないけどゴブリンには効くと思ったらしい。キングは微妙とのこと。


これには流石のキングも驚き、焦りを感じ先生の方へ走り出した。


先生と双葉さんは魔力を共有していて、さっきの魔法は消費が物凄く多く数分は動けなくなるらしい。

なので、少しの魔力で張れる結界、魔力の障壁を張ってそこで耐えてもらう事になる。


ガン!ガン!と先生の張った障壁をキングが棍棒で叩く。

その間に『鷹の目lv2』で弱点を狙い、一点集中で放つ。


もう1発、と俺は矢を放つとザシュッといい音がした。


「グギギ!」


多分、魔核に矢が刺さったのだろう、少し痛がった。

そしてくるりと体を反転させ今度はこっちに向かってきた。


キングがいる位置から俺がいる場所まで距離が結構ある、なので、ある程度近づかれるまで俺は矢を放つ。

ドンドンとキングが走る。


3mもある訳で凄く怖い。


最後の1発と思い矢を放った。


上手い!我ながらだが、上手く行ったと思う。

時々、今回のようにこれは確実に敵の急所に入ると自覚する時がある。


だから少しの安堵・・があった。


その安堵なんてものはすぐに散った。


キングは今ポップしたであろうゴブリンを1体鷲づかんで盾にして急所を防いでいた。


「グギギ!グギャ!」


キングが吼えた。


まずい、もう近い!


その時キングが手に持っていたゴブリンを投げた。


何を考えているのか分からない、だが危機なのは分かっているので矢に手をかけ横に動いた。


ゴブリンが避けた先に向かって投げられていた。


「危ない!」


そう、先生が叫んだ。


一瞬ゴブリンのせいで前が見えなくなったが無事に避けたのだがそれを読んでいたのだろう。


避けた先には待っていたかのように棍棒を振り上げるキングの姿があった。



せめてもと思い、右に避けながら俺は手にかけていた矢を射た。

奇しくも俺が持っていた矢を放ったのとキングが棍棒を振り下ろしたのが同タイミングだった。


グシャァ。そんな紙を勢いよく紙を丸めるような音がした。


自分の左腕から・・・・


「え?」


一瞬何が起きたか分からなかった。

だが考える暇なく激痛が俺を襲った。


「ぅ...ゔゔぁぁぁア!!!」


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

頭が可笑しくなりそうな、俺の17年間で1度も体験したことのない痛みがくる。


奇跡的なのか俺が放った矢もキングの左目に突き刺さっていた。


「グギャー!グギ!ギャ」


キングは何かを吼え、こちらを怒った目で見ている。

そして、棍棒を再度振りあげた。


あぁ、今度は助からないだろう。

ゆっくりと目を閉じた。もう動く気力もなかった。


17年間かぁ、凄く短く感じる。なにか出来たのだろうか



『こんな所で終わるのかい?君の物語は。』


そう、心の中で誰かが呟いた気がした。


俺の物語...。


『そう、君の物語。まだ終わらないはずだ。いや終わらせない目を開けて、現実をみるんだ』



目を開けるとそこには先生がいた。


「海兎くん!何を終わった気でいるんですか!たかが腕が潰れたぐらいで!」


そう、怒鳴られた


そっか、先生が俺とキングの間に入ってきて障壁を張ってくれていた。


「でも結構一大事だと思いますよ、先生。」


俺はよろけながら立ち上がった。


「取り敢えず、出口まで走りましょう。そしたら治療します。」


俺達から扉まではあまり離れてはいないがこの怒り狂ったキングが逃げるのを許してくれるか。



俺と先生は死にものぐるいで走った。


「グギャー!」


キングがそう吠え走ってくる3mもある訳で凄い速度で迫ってくる。


このままでは追いつかれると思って俺は口で矢を持ち潰れて使えない左手ではなく右手で弓を引いた。


慣れないことをしたので太ももに少し刺さったぐらいだったが、動きが少し遅くなった。


俺と先生はそのまま扉に転がり込んだ。


「「ふぅ...。」」


2人で同時に溜息をつく。これは安堵からくる溜息だ。


「あ!腕を見せてください!」


思い出したかのように先生が言ってきた。


俺は左腕を右手で持ち上げながら先生に見せた。


「ひどいです。この後の戦闘のことを考えると...でも。」


先生が深呼吸をして

『我の魔力を代償にこの者の傷を癒したまえ ハイヒール』


そう唱えると俺の腕は光に包まれた。

すると、さきほどまで強烈な痛みで感覚がなかった左腕が潰されていたのが嘘のように治った


「先生、回復魔法って凄いんですね。」


「日本にも回復魔法があればいいのにって私もよく感じます。それで...ですね。魔力切れで動けないんですよ...。」


と困った顔で言われる。







「はぁ、はぁ、ふぅ。着いた。」


先生の魔力切れが判明してから俺が先生をおぶって19階を上がってきた。

魔力切れがおきると思考能力の低下、強烈な眠気が襲って来る。ハートブレイク、さっき双葉さんが使っていた黒魔法が魔力切れの理由の大半を占めている

黒魔法の中の攻撃系の魔法は魔力消費が大きいが一対多数ではほぼ無敵らしい。


「先生、着きましたよ。ってやっぱり寝ちゃってるか」


敵には目もくれずセーフティポイントに飛び込んでまた、別のセーフティポイントに飛ぶ込むってのを繰り返して上に登ってきた。


取り敢えず、『踊るナス亭』に戻ろう。



「おい、勇者様達が来てるらしいぞ!」

「今ならギルド辺りにでもいるんじゃないか?」


と、向かいを歩いていた冒険者2人がギルドに向かって歩いて行った。


ん?勇者?


なんか聞いたことある単語ダナー、ナンダローナー


よし、『踊るナス亭』に帰ろう。



『踊るナス亭』について、今日あったことを話すとレーンさんは


「え?ボス?え?どこまで行ってんのお前ら?」


聞くと、最後のボス部屋はパーティーでレイドを組んでいくものらしく最低でもパーティーが2つ以上とのこと。


「そうだな、まず仲間を増やせ。1人くらいなら心当たりがあるから紹介してやる、前衛を1人な。」


そういうレーンさんは滅茶苦茶、笑顔だったと言っておこう。

まさに悪ガキという表情だった。



その次の日、レーンさんと待ち合わせの場所に行くと頭まで入っているガチガチの鎧を着込んで馬鹿でかい大剣背負ってる奴がいた。


「え?あれですか...?」


そう俺が聞くと


「ああ、すごいだろ?」


と意地悪な笑みでそういった。

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