奇跡の出会い~Girl Meets Boy~

真っ白な閃光の先に人影が見える。


予定の位置とは正反対から発光し、思わず振り向いた。スモークが焚かれたわけでもないのに真っ白。一瞬にして、スタッフの気配が消えてしまった。


感じる気配は、目の前の人影のみ。


「そこにいるのは誰?」


結愛はゆっくりと歩み寄っていく。


上官のセリフがすぐにあるはずなのに聞こえてこなくて、不安で目の前の人に話し掛けてしまう。そんなセリフはないけれど。


「そっちこそ……誰だよ?」


男性の声が聞こえた。初めて聞く声。俳優さんにいたかな? と首を傾げる。こんなシーンはない。結愛はアドリブが出来ないわけではないから、対応すべく、様子を伺う。

もしかしたら、ゆりが結愛に内緒で臨場感を持たせるシーンを作ったのかもしれない。

結愛はまだ、知らなかった。知っているはずもなかった。


━━『タイムパラドクス』に巻き込まれただなんて


撮影中かもしれないと、気を引き締めた。


「私は……『御子柴澪、特察刑事レディーガンナーよ。民間人かしら?』」


やや沈黙が流れた。


「……まさか、『平行世界パラレルワールド』に来てしまった?女の警官?俺は『カナタ・エンジョウ』。今は『2016』年か?」


結愛は口ごもる。確かに自分の時代は2016年。何だかおかしい。作中セリフにあるはずのないセリフ。新展開を最終回でやるなら、二期製作をしていなければならない。だが、一期で打ち切りなのだ。こんな展開はあってはならない。


真っ白な空間をお互い歩み寄り、少しずつ輪郭が、顔が明確になる。お互い目を見開いた。同年代の異性が目の前に現れたのだから。


結愛は共学に通っているから、同年代の男子と話すことも稀にある。だが、目の前にいる男性はちょっと雰囲気が違う。別段お洒落と言うわけでもないが、清潔感があり、同級生よりも大人っぽい。落ち着きのある風貌。所謂イケメンなのだが、その一言で片付けるのは失礼な気がした。


「……警官っていうから、年上かと思ったのに若いのな。」


上から下まで、視線を感じる。結愛は急に恥ずかしくなった。撮影ならば、こんなセリフは絶対ない。ということは、目の前にいる男性は本気なのだ。


「おい。さっきの返答を待ってるんだけど。今、何年なんだ?」


はっとした。衣装で対峙してしまっているせいで、ちょっと動転していた。


「あ、はい!今は『2016』年です!」


素に戻ってしまう。


「そうか。時間軸はピッタリ合わせられてはいたようだ。しかし、でも着ている服って然程変わらないもんだなぁ。いや、ちょっと派手か。警官にしちゃ可愛いし。」


前半は何を言っているかわからなかったが、『可愛い』と言われ、固まってしまう。遠巻きで言われても反応に困る結愛。真正面で言われたら尚。アイドルではあっても、決して自らを可愛いとは思っていない。整っていることを可愛いと表現するのであれば符合するのだが、それとは違う。可愛くないとは思わないが、率先して自分が可愛いとは言わない部類であることは間違いない。姉たちにも、「色々勿体ない」だとか、「いや、そこが結愛のいいとこなんだよ」などと好き勝手言われてしまうほどの天然だった。勉強も運動も学年一位をレコードし続けるほどの万能ぶりを見せながら、世俗には疎かったりする。

アイドル曲を聞いて流行り廃りを研究はするものの、イマイチ、イマドキの『可愛い』がわからない。いい意味で個性的なのだろう。誰も否定せず、良いところを見つけるのも彼女の得意技と言える。浅く広く許容していく。どんなものも、存在してはいけないことなどあってはならない。『すべて平等に必然的であれ』、それこそが雪野家家訓。自分を貫き、相手を認められる人間こそが至高なのである。

だからこそ、雪野結愛という人間は順応性が異常に高いのだ。

……『可愛い』が例え、服に対してだとしても。

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特察刑事レディーガンナー澪《れい》 姫宮未調 @idumi34

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