4話 パーティーに誘うには 5

「あ、こっちですこっちー!」

「アンタかああああああああああああああああああああああ!!!」


 私は大きく手を振って呼び掛けると、お嬢様――リタちゃんはもの勢いで走って来、こっちのテーブルの前まで来るや否や、テーブルをバン! と叩き、胸をブルン! と震わせ、私を睨んできました。

 その表情は鬼のように凄まじく、息は荒く、まるで暴れる寸前の闘牛のようでした。


「面接ですよね! ちょっとご飯で散らかってすみませんけど、そっちの席におかけください」

「普通にそのまま面接進めようとするとかどういう神経してんのアンタ!? それよりこれどういうことよ!」


 もう一度テーブルをバン! 胸をブルン! とさせるリタちゃん。 しかし先程とは異なり、その手の平とテーブルの間には、1枚の用紙が一緒に叩きつけられていました。 勿論それは私が丹精込めて書いた募集用紙です。


「あ! うちの募集を見てくださったんですよね! ありがとうございます!」

「よくもまぁいけしゃあしゃあとそんな事が言えたものね! 女じゃなかったらぶん殴ってるところよ……ッ!」


 わー怖い。 女に生まれてきてよかった。


「やー、ごめんなさい! あーいう募集を書いておけば、私達がどれほどあなたを欲しているかが伝わるかなと思ったんです」

「本気で言ってるのアンタ!? どう見たってバカにされているとしか思えなかったんだけど!?」

「まあ確かに釣るためにからかい半分の内容も付け加えましたが」

「「おい」」


 お嬢様だけでなくきゅーちゃんも含めた二重の突っ込みが入りました。


「そうでもしないと、私たちの募集には目もくれないと思ったからですよ。 えっと……リタさんで良いですか?」

「! 私の名前知ってるんだ……まぁあそこまで私の事を詳しく書けるんだから、知ってて当然か」


 まぁそれを知ったのは数時間前程度なんですけど、言わない方が優秀なイメージが付きやすいんで黙っておきましょうか。


「それさっき受け付けのお姉さんに教えても「ふんっ!」らぎゅっ」


 余計な事を言いかけたお子様に裁きの鉄槌を下しつつ、


「それで、改めてお願いしたいんですけど……私たちの仲間になってくれませんか?」

「ホントいい性格してるわねアンタ……。 前にも言ったけど、アンタみたいな性悪女がいるパーティーなんてごめんよ!」

「えーホントにー?」

「ホントに決まってるでしょ!」

「きゅーちゃんもいるのに?」

「!? だ……だから何よ!? そんなの何の理由にもならな……ニヤニヤしてんじゃないわよ腹立たしいわね!」


 やー、だって可愛いんですもん! 怒り方がさっきまでと違ってこう、ゴゴゴ……! ってな怖い感じじゃなくて、プンスカー! って感じで!

 ……まぁ、でもそろそろ本気で殴られそうなんで、本題に移るとしましょう。

 私はニヤニヤしていた顔を引き締め、お嬢様の目をしっかりと見据えます。 急な温度差に、お嬢様がわずかに怯んだのが見えました。 私はすかさず、


「あなたを仲間にしたいというのは本気です。 あなたの力が本当に必要だと思ったんです。 私は魔法に明るくはありませんが、倒れたきゅーちゃんをあんなに元気にさせたあなたの治癒魔法は本当にすごいと思いました。 ……この間の件で察しているかと思いますけど、きゅーちゃんは剣の腕は立ちますが、体力がありません」


 体力が無いと言われたゅーちゃんは、何か言いたげな顔をしましたが、私は続けます


「だけどあなたの治癒魔法さえあれば、きゅーちゃんのその体力の無さを補う事が出来るんです! だからお願いです。 私たちのパーティに入ってください! きゅーちゃんの体力の無さが解決できれば、私たちのパーティは格段に強くなるんです!」

「1度ならず3度も言ったな!? ちょっと表に出ようか! 我が封印されし力を見せてやろう!」

「初めてのクエストの時から十二分に見せつけてもらったよ! だから仲間が欲しいんでしょうが!」


 私に叱咤されたきゅーちゃんは私に圧されたか事実過ぎて言い返せなかったのか、しゅん……と小さくなってしまいます。

 ちょっと可哀想ですが、事実ですので一旦置いておきます。


「そんなわけで、あなたの力が欲しいんです! お試しの期間を設けて、それから考えるでもいいです! うちのパーティに入ってくれませんか……?」

「ん……、ぐ……………!」


 私は、本気の本気の気持ちを込めて、改めてリタちゃんにパーティの参加をお願いします。 おそらく、この世界に着てから一番真面目な顔をしているかもしれません。

 リタちゃんの方も、ようやく私の真剣さが伝わったのか、わずかに身動ぎし、目を逸らします。 その目線の先には……


「――っ!」

「…………?」


 リタちゃんはきゅーちゃんと目が合うと、顔を赤らめ、慌てて目線を外しました。 これ以上ないくらいに乙女の反応です。 対してきゅーちゃんを傾げました。彼女が自分を見た理由がわからないんでしょう。お子ちゃまめ。

 リタちゃんはちらちらときゅーちゃんを見ながら、口をもごもごさせ、


「ね、ねぇ……アンタは、私にパーティーに入ってほしいって、思う?」

「え?」


 きゅーちゃんに投げかけました。

 おぉ……これはチャンスです! 私の必死さが伝わったからという訳ではなさそうなのがちょっと残念ですが、リタちゃんは明らかにパーティーに参加する方に傾きかけています! これはイケるかもしれません……!

 頼むぞきゅーちゃん。 君の言葉一つで、リタちゃんがうちのパーティーに入ってくれるかが決まるよ!

 きゅーちゃんはまさか自分に振られるとは思っていなかったのか、ポカンとし、「えっと……」と軽くこめかみを掻いてからこう言いました。


「汝が入りたいのであれば、良いのではないか?」

「おいちょっとそこのおこちゃまこっちに来きなさい」

「え? あ! 仮面取らないで!」

「ちょ、いきなり何なのよアンタ!」

「ちょっとごめんなさいね♪」


 きゅーちゃんから仮面をはぎ取った私は、そのままきゅーちゃんの首根っこを掴み、急なことに驚いたリタちゃんに一度謝ってからいったんその場から離れます。


「何言ってんのきゅーちゃん! お嬢様にパーティーに入ってほしくないの!? ていうかなんでその口調なの!!」

「いや、ごめんつい……。 なんていうか……入ってほしいとは思うけど、そういうのって本人の意思が大切なんじゃないのかなと思って……。 あとなんかすっごい怒ってて怖いし……」


 このおこちゃまは、こんな時に怖気づきおって……!


「確かにそれはわかるし原因作った私もごめんだけど、あの子の必要性はもうきゅーちゃんだってわかってるでしょ? きゅーちゃんの体力の無さを補うには、あぁいう回復役の力が必要なの! それとも、まだ自分の体力の無さを自覚してないの?」

「……わかった、ちょっと言い方変えてみる。 ……それはそうと仮面は返して」

「あいあい、んじゃ頼むよ。 あと、口調は普通のにすること」


 理解を示してくれたきゅーちゃんに仮面を返し、一緒にリタちゃんのもとへ戻ります。 いきなり置いて行ってしまったからか、相手さんの表情はどことなく不機嫌に見えました。

 

「……何二人で話してたのよ」

「やーごめんなさい、なんでもないんです! ホラきゅーちゃん」

「あ、うん」


 話を進めないとより不機嫌になるかもしれないので、さっさと決着をつけるため、私はきゅーちゃんをリタちゃんと向き合わせます。


「…………」

「…………」


 向き合った二人は、たぶんそれぞれ理由は違うのでしょうが、お互いに無言のまま恥ずかしそうにもじもじしていて……なんか体育館裏の告白シーンみたいだなぁ。 仮面がすごく雰囲気ぶち壊してるけど。

 そうしていると、勇気を振り絞ったのか、きゅーちゃんが口を開きました。


「えっと……まだ言えてなかったけど、この間はありがとう」

「い、良いわよ別に……傷ついている人を癒すのが、私たち聖職者の仕事だし」


 あなた今までの仲間には全然回復してあげなかったり暴力をふるったりしてたんじゃなかったっけ? と言いたくなりましたが、私はそれをグッと飲み込みました。


「そうかもしれないけど、とても助かったから……」

「そう……じゃあ、どういたしまして?」

「う、うん……」


 おお……なんかすっごく背中がムズムズする。 お互いにぎこちなさすぎるなんだこれ!

 もういっそのこと間に入りたくもありましたが、それではきゅーちゃんに任せた意味がありません。 このまま会話が途絶えてただ時間が過ぎていくのではないかと心配した、その時でした。 きゅーちゃんが再び口を開きます。


「だから……よければ、その……うちの、パーティーに……入って欲しい……」

 

 言ったあああああああああああああああああああああああああ!!!! きゅーちゃんついに言ったァ!!

 正直この時点で勝利を確信した私は思わず口角ゆるんでしまいますが、まだ油断してはいけません。 表情筋に力を入れることでそれを抑え、すかさずリタちゃんの様子を眼だけで確認します。


「……………………」


 おぉぅ……なんかプロポーズを受けたかのように口を手で押さえ、顔を今までの中で一番真っ赤にさせています。

 いやあの、家族になってくれと言われたわけじゃないんだけど……まぁ、自分のピンチを助けてくれた王子様から言われた言葉なら、そう聞こえてもおかしくないんでしょうが、果たして、リタちゃんの返事は……?

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