第4話 Tシャツと太陽

 さらに日差しの強い夏の午後のことだった。


 恭輔は一人どぶ川の辺りをぶらぶらしていた。家からは子供の足で十分もかからない、茉莉子の通う小学校の近くまで来ていた。直ぐ目の前は学校通りである。車の往来のあるそこへは出てはいけないと慶子から言われていた。恭輔は縁にしゃがんでどぶ川を覗き込んだ。綱渡りに挑戦しようと思ったのではない。昔はフナがいたという慶子の言葉を思い出したのである。

 両足の位置はそのままに、身体を伸ばしてコンクリートの平均台に左手をついた。間近で見ると、水は思った程汚くなかった。日差しが底までとどいている。

 すると、ちょうど学校通りの架かる辺りに何か動く物が見えた。

 

 何だろう……


 恭輔は上半身を右に向けながら膝を伸ばして道路の下を覗き込んだ。右足のつま先が縁から離れたのとほぼ同時だった――彼が背泳のスタートを切ってしまったのは。

 深さはなかった。たやすく上がって来ることができた。白地にオバQがプリントされたTシャツも普段の汚れとさして変わらなく見えた。


 乾くまで帰れないな……


 恭輔はそう思いながら、やはりじりじりと照りつける、やけに眩しい太陽を見上げた。


(第2章につづく)

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ドロウ・ザ・ライン 第1章 one minute life @enorofaet

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