亡くなった両親のこと、そして現在《いま》

 私自身が成人後に社会不安障害という精神疾患に悩まされている間、それでも物理的に何とか生きて来られたのは、当然のことながら、何も自分自身の夢や希望を追いかけていたから、といったことばかりだけではありませんでした。

   

 当然『人はパンのみで生きるにあらず』。が、やはりその「パン」なくしては、どうにも自分の身体を生きながらえさせることは不可能でして(汗笑)。マドモアゼル・愛先生などは「人は食べ物によってカロリーを得て活動しているのではない」(第三章「現状いまという認知」~『人の心を喰らうモンスター社会~自分本来の意識革命』https://kakuyomu.jp/works/1177354054880832188/episodes/1177354054880999114参照)とはおっしゃいますが、それでもやはり――ね。


 そうです、私はずっと両親と実家暮らしをしていました。というか(これは4つ年下の弟もなのですが)当然のことながら、経済的にとても自立できるような稼ぎもなく……本来ならば、ある程度の年齢に達したら結婚でもして家を出るのが一般的な筋というものなのでしょうが、生憎私にはそういうことがありませんでした。ここ最近では、いい大人になってもずっと両親と実家暮らし(というか中年以降、独身のまま親の介護に追われるとかね)という人の割合は決して少なくないようですが。


 しかし、3つ年上の姉は勤めていた会社で出会った人と、ちょうど20年ほど前に結婚したのですが、それでも転勤でこちらへ来ていたその旦那さんが会社の都合で地元へ戻ることになり、それで結局は姉も一緒に遠路はるばる本州の外れの山口へと。


 でも、その早くに結婚して今や男の子二児の母親となった姉は今現在、順風満帆に女性の幸せというもの自体を謳歌することができていると思うのですが、その反面私は。私自身、姉のような見栄も外聞も何も持ち合わせておらず、ただ「何かが違う」というモヤモヤした思いを抱き続けて今に至っており、それこそは自分自身による自分自身のための「真の天職」そのものを見つけるためであったのですが。


 それでも、それができたのは、何よりこの両親と実家である我が家があったからこそ。それは何も言わずに受け入れてくれる、それこそ何があっても無条件に子供である自分自身を守ってくれる、結局、最後の砦のようなものだったのかもしれません。


 実は私自身がこうした何かしらの精神疾患を患っていることを、どうも父はそれとなく知っていたようで(まあ10数年前、確かに一番最初に県病院の精神科を訪れた時、母も一緒でしたから)。それでも以前、私がネットの知人を通して初めてこの自身の疾患について詳しく知ることができた時、この社会不安障害の資料を幾つかネットのページからコピーして両親に渡そうとしたのですが、結局、私の父も母も、最後までそれを受け取ってくれませんでした。


 その事実を理解しようと務めることすら拒否され、自分の娘がこういった訳の分からない病気にかかっているのだという事実を、たぶん認めたくないのだ、とそう思い、本当に当初はものすごく傷つき、自分の娘がずっと人知れず悩んでいたことに真正面から向き合ってもくれない、そうした両親の不甲斐なさや心の弱さに、その時は、とてつもなく絶望しました。


 確かに病院の精神科ではっきりとその病名を伝えられたという訳ではありませんでしたが、そのこと自体は、あまりそういった事を決め付けて伝え、本人の自立や独立心を削ぐようなことがあってはいけないという判断から、だったのでしょうが。


 が、これはあとから義理の叔父から聞いた話なのですが、私自身こうした何らかの鬱病めいたものにかかっていて時折病院にも通っていることを心配してか「あまり娘には(心身ともに)負担をかけられないんだよ」と……。今思えば、本当にお父さん、ごめんね、ありがとう。という感じなのですが。


 実はその父は昨夏、肝内胆管癌で亡くなっています。ちょうど5月の連休明けにお腹の調子が悪い、と言い出したと思ったら、それから緊急入院して。それまでもずっと日中寝転んでTVばかり見ていて食も細く、おかしいな。と思っていたら……でも「どこか悪いの?」とか「病院行って見てもらったら?」などと言うと、気の強い父のこと、ただ「うるさい!」の返事が返ってくるばかりでした。黄疸の症状も出ていて入院中一度その処置をして貰ってから家族である私含め先生と相談して、手術はせず(つまり場所が悪く取りきれない)通院で抗がん剤治療を選択して。でも結局、その治療の努力も虚しく、お腹全体に細かく転移(腹膜播種)してしまい……。


 本当にあっという間すぎて拍子抜けするくらい、あっという間の出来事でした。


 そして6年ほど前に脳梗塞を起こして以来、右半身が不自由で要介護だった母も、ちょうど父が亡くなる一年前に、元々持っていた持病の心臓病で他界。つまり我が家は二年続きで両親を亡くしたことになります。本当にまるで母のあとを追うように父も――。残念ながら結局、母の最後は看取ることができなかったけれど、父の時は一晩、病室につきっきりで、ある意味壮絶な最後の瞬間をどうにか看取ることができました。思えば、最後まで色々あっても二人とも仲のよい夫婦だったのかな?などと。


 が、しかし。ただ一人残された家族である弟は、昔からの酷い癇癪持ちで、10数年ほど前は今よりずっと荒れており、その節はご近所にも車の騒音などで、色々とご迷惑をかけたと思います。生前の母はこの弟の騒動で随分と気を病み酷く悩んで、常に弟のご機嫌を伺ってばかりいました。何かあるとすぐ凶暴な声色で怒り出し、どんな些細なことでも自分自身の思い通りにならない、気に入らないことがあると家中のドアや壁、家具や食器などを感情に任せて壊します。ある意味、私などよりずっと弟の方が何か問題のある精神疾患を患っているのでは?などと疑ってしまうほど。


 もう40すぎのいい大人なのですが、とにかく我慢するということが全然出来ない人なのか、両親が亡くなるまでは10年ほど無職で、それも親に常に無心してばかり。今ではあの当時よりはずっと騒ぎを起こすこともなくなりましたが、それでもとにかく「怒りの感情をコントロール」することができない性分らしく、この弟がカッとなるととにかく恐ろしいので、今でも半ば日々戦々恐々とする毎日。


 まあ、この愚弟のことはともかく(叔父も半ば呆れて見下してます)今現在、私自身は、これまでパートで4年ほど勤めていた会社を退職し、もう少し稼ぎのよいところへ就職しなければならないという状況なのですが、それでも10年ほど前に郵便事業会社のコールセンターで勤めていた頃より、ずっと体力も落ちていて、なおかつ家のこともほぼ自分ですべてやらなければならないので(つまり弟は全く関与なし)使える時間も、そして収入自体も、どうしても限られてきてしまう。


 両親が他界して以降、そのあとの諸々手続きだとか、色々と家の身辺のことを親身になって助けてくれた、市内の母の実家に住む血のつながらない義理の叔父(要するに母の妹の旦那さん)には、本当に今も頭が上がらないのですが、その叔父に私自身の精神疾患などについて相談すると、こういう家の事情含め、一度市役所の窓口へ相談してみたらどうか?という話になり。


 自分自身としては本位ではなく、そして実際問題、生活保護を受けるなどということは、よほどのことでないと認められない事実も少しは知っており、それはちょっとどうか――とも思ったものの、事実としてそうでもして、この問題児の弟と離れ一度家を出て、そうした行政の保護を受けなければ経済的に生きていくことは不可能かと……。


 本当にそういう時に、私自身にもっと甲斐性があり、せめて自分の身くらい自分の稼ぎで養って食べていけるような、何かしらの自身の仕事を持っていれば何の心配も要らなかったのでしょうが、それほど現実は甘くなく。これではまるで男性の話のようですが、実際今後そうした問題を少なからず孕んでいる弟は、今現在ようやく重い腰を上げて終日働きには出ていますが、それでもまだ何だかんだで家にお金は入れてくれません。今はまだ親が残してくれた保険金などのまとまったお金があるから、どうにかなっているものの。


 本当に自立とは、どういうことなのかと常々考えさせられます。元々我が家は両親それ自体が子に対して甘かったのでしょうか。本当はもうとっくに結婚して自分の子供を持ち、その子を養わなければならない年齢だというのに、それでも運が悪かったのか何なのか、私も弟もそういうものに一切恵まれませんでした。……というのは嘘で、そもそも自分自身が興味がなかったものに、今さらその後の歳を取った自分をどうにかして貰おうなどという考え方自体甘く、本末転倒なのかもしれません。


 本当は色々と正面から向き合わなければならないことが目白押しなのに、それ自体をじっと見据えることが怖い。自信がない。そして、そうなると一気にどうにかなってしまいそうで、敢えて自分自身の現実というものを、こうして見ないようにしているのかもしれません。


 それこそ自分自身の子供を持つ以前の(もしかしたら、もうそういう機会はないかもしれませんが)自分のことにさえ、これほどまでに躓いている。この歳で何ともお恥ずかしい限りですが、そういうことを当たり前のように、うちの両親も乗り越えて私たち子供を育ててきてくれたのだと思うと、そうした叔父の話に頷くまでもなく、やっと二人とも他界した今になって親に頭が上がりません。


 母は花を育てるのがとても好きな、本来とても無邪気で愛らしい人でした。4年弱でしたが、デイサービスのリハビリを受け生活する母のお世話を若干でもできたことは、せめてもの慰めでしたし、要介護の身となってからの母は、それこそ子供に戻ったかのように、とても可愛い母でした。実家の美容院で仕事をしていた以前は、それこそ厳しいくらい口うるさかったのに。私の作ったご飯も「美味しい、美味しい」と言って食べてくれ(因みに父は一言もそういうことを言ったためしがない、苦笑)3月の桃の節句に、お花の模様の巻き寿司を作ってあげると、とても喜んで沢山頬張って食べてくれたことを嬉しく思い出します。


 父も元々家族サービス旺盛な人で、姉が遠くへ行ってしまうまでは、そんなに意固地な怖い人ではなかったけれど、定年後もシルバーセンターへ登録して植木の仕事などを精力的にしていたものの、さすがに母がああなってからは気力が落ちてしまったようで。それでも気持ちだけでも強くいたいという去勢のせいか、常に怒り出すとカッと目を向いて怒るような人で、晩年は私と口喧嘩してばかりでした(苦笑)。


 その気の強い頑固な父も(実は太陽冥王星合の満月生まれ、笑)実際は、最後まで子供のことを思って色々と気を遣ってくれていたんだなぁと……。でも、弟にくれと言われて「はいよ」と軽々とお金を渡す癖はどうにかして欲しかった。確かに渡さないと何をするか分からない人間なので色々と怖いのですが。実際この父には、亡くなったあとも頭が上がらないし、今にしてとても感謝しているけれど、それでも本当の子供の自立を考えるなら、まずそれはないだろうと?


 子供のいない私にだってそれくらいのことは解る。本当の意味での精神的な自立。それが出来なければ、いくら歳を重ねても、その人は成人したとはとても言えない。これは精神疾患云々とは別問題。本当の本人の心の問題。その意味で私の弟は、まだまだ中学生レベルの精神年齢どまりなのかもしれなく……確かにそう決め付けてしまうのは、本人に些か失礼なことかもしれないけれど。


 たとえ自分は結婚などできなくても、それでも自分の夢を実現させることさえできれば、どうにかなる……。本当にざっくりと、ただただそう信じてきたと思います。弟はそんな信じられるものがないから、そもそも不幸で、そういう気持ちの拠り所のない自分自身に実は苛立ち、家族ほか周囲の人を困らせるしか能がない人なのだと。


 そう、ただ自分自身の夢さえあれば――。人は躓くことなく心身ともに健全に生きていける。それは別に社会がそうであると仕向けているものとは違うと思います。少なくとも、私自身は。本当の意味で、それは自分自身の核となりうるもの。それでも、それすら現実に実現させることは難しいかもしれない。それこそ「人はパンのみで生きるにあらず」。しかし、そうした綺麗事では済まないという、いかんともしがたい現実がまずここにある。


 それだけに、我が家のような問題を抱える家庭にとっては、もしもベーシックインカムのような最低限の社会保障制度が現実にあれば――と、些かおこがましい話かもしれませんが、やはりそういうことを想像してしまいます。夢を持ち、それを実現させる以前に、現実問題これでは餓死してしまう。そういう、いかんともしがたい切実な問題がここにもあるのです。


 タレントの菊池桃子さんは、キャリア論という専門分野で一から学び、40代すぎてから大学の修士課程を卒業して今現在、そうしたことを母校で教えてらっしゃいますし、安倍政府の提示した一億総活躍会議などにも積極的に出席し、自身のように障害のある子を持つ家庭をその視野に入れて、そういった人たちの支援を行うべく日夜活動されているようですが。


 決して桃子さんを非難するわけではないけれど、最初から恵まれている有名人の方に何を言われても……みたいに感じてしまうのは、やはりみっともない底辺崩れの考えでしょうか。パマナ文書のような重大な問題を庶民にひた隠しにしているような政府や世間の大企業などに何を期待しても無駄でしょうが、やはりこうした、それでも何とか生きている大多数の国民のすべてを蔑ろにするようなことは、事実あってはならないことだと心底思います。


 本当の意味で国民全員が夢を持ち、健全な精神をもってして活躍できる社会をめざすというのなら――。

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