第13話 振袖 ささやき声 鈴の音


庵の方向には、どうやらその右奥に待ち合いがあるらしかった。


憂ちゃんには、飛び石やじゃりの庭は良くなかったね。。。本当にごめんね。

でも来てくれてありがとう。。。さっきは。。。本当にごめん、許して。。。。


一矢のささやき声は、思わずして、吐息が頭の芯に響くような本当に耳のすぐ側で、またカッと、憂は赤くなった。こんな所を見られたら、何を言われるか分からない。少し後ずさりして、いえ、こんな晴れやかな桃の節句は初めてですから。。。そう答え、憂はぎこちなく微笑んだ。そこかしこに振り袖姿の女性。


一矢は、母と祖母の生徒さん達なんだよ。。。と言い、憂ちゃんも良かったら、いつでも遊びに来るといいよ、お稽古事は楽しいよ。。。


そうすると、高崎抜きで会える。。。


僕もね、お琴は弾けるんだよ。。。おもしろいだろう?楽器は何でも得意なんだ。。。また今度遊びにおいでよ。。。


一矢はいたずらっぽく言うと、再び憂の手を引いて、ここが受付、と言い、家人に、高崎憂様だ、と目配せした。


にっこりと30歳くらいの受付の女性は、本日は遠方よりこんな山深い庵までお出かけ下さって、ありがとうございます。。。とお茶席の券と荷物の預かり札を手渡した。


お席の前に、お食事はあちらの座敷で。。。。


一矢の指差した先には、どうやら一段、二段上がった長い廊下のその先に、食事のための座敷があるようだった。


ここから先はわたくしがご案内致します。。。


静かに、右手から、家人の女性が現れた。この女性も、30歳くらいだろうか。それとも、20歳の半ばだろうか。


子供の憂には女性達の年齢は想像つかなかったが、どちらにせよ皆、重い鈴のようなかすかな音を着物の袂から時々響かせた。


こんなに綺麗な女性ばかりに囲まれていて、一矢様は。。。。


じゃあ憂ちゃん、楽しんで行って下さいね。。。。


少し名残惜しそうな顔をして一矢はそう言い、その後ろから影のように来た家人と消えた。

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