第7話クラリスIV

【サイド・クラリス】

 そう、セバスチャンっていうのね。

 ほの白い陶器のような肌をした人……。頬は少し赤く、日焼けしている。たくましい肩、腕……。私の荷物をそっくり持ってくれた。いいって言ったのだけど……。

 なぜかしら。人を待っているはずなのに、部屋に上げてしまった。あげく、お茶を淹れている私……。

 いやだ! お化粧が。おかしいわね、こんなに崩れてただなんて。そしてこんな私に親切にしてくれただなんて、どうしてなの? どうして彼は優しいの……?

 心配? そんなものされるいわれなどないわ。理由もなく、こんな醜い女に親切をする男性なんていないわよ。

 帰って! 私、これから出かけるの、彼を待っているの。着替えるから……出てってよ。

 精一杯の虚勢……嘘じゃないわ。私は嘘など言ってはいないわ。

 なのに……不思議よ、私。どうして胸がどきどきしているの? エメラルドのような瞳の色が忘れられない。いいえ、惹きこまれるようだった。妙にふわふわした心地。

 今夜のディナーは、味がしなかった。

 あのまま一人でいればよかった……。ふわふわとしたまま……いれば、よかった。


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