第50話 魔王
「あ!」
そこには俺と同じくらいの年の女の子がいかにも王様が座りそうな椅子にリラックスした様子で座っていた。細身で華奢な体と真っ白な肌に腰まである髪。どっからどう見ても魔王には見えないが、彼女は玉座に座っている。この部屋に、この城にいるのは彼女だけだ。
……。
どうしよう。いろいろ想像してたけど、これは……どうしたらいいんだ?
女の子はこちらを見て椅子から立ち上がり微笑んだ。
「勇者。待っていたよ。今回は時間がかかったな。それにしても今度の勇者一行は面白いな」
いかにも楽しげな表情で彼女は言う。
「君が魔王?」
受け入れ難い事実につい本音がポロッと漏れる。
「そう。みたい。来る勇者来る勇者にそう言われて切られるから」
「来る勇者来る勇者って、君はずっと魔王? あれ? 魔王って毎回倒されてるよな?」
最後の問いは後ろにいる勇者伝説に詳しい二人に聞いたんだが。
「何度も勇者に切られて死んでは、またここにいる。どうやら数百年経った後に生まれ変わっているみたい」
「君が魔物を?」
その続きをなんと表現すればいいかわからなかった。
「魔物なのよねえ。一番はじめの勇者にやられなかったのよね。攻撃されたからやり返してしまって。そうしたら世界中魔物で溢れかえってしまった。だから、次からは勇者に切られてるの。私と魔物がどう関係してるかわからないけど、私がいなくなったら魔物も消える。きっと関係がある。だから、勇者が私を切りに来る」
「君が何かしてるわけじゃないの? 城にも城のまわりにも魔物いないのは?」
魔王に質問攻めしてどうなんだろうと思うがこのまま戦えない。
「私が魔物を倒してるから。近づいてきたら倒してみたの。勇者もここに来やすいでしょ? 私あの紫色の煙が見たくないのよ」
この発言はもう魔王じゃないんじゃないか?
「魔王が魔物倒してるって。もしかして君って強い?」
城のまわり一帯、影も形もなく魔物を倒すなんてどんな力だ?
「うん。勇者が太刀打ち出来ないくらい」
「え? でも、君は何度も勇者にやられて……」
「ええ。手を出さないから。一度目に勇者を倒して、世界中を魔物だらけにしてしまった。私の役目は勇者にやられる役なの。それに気づいた。何度も転生してはここにいるのは苦痛だけどね。十年間、勇者が来て私を倒すのを待つ」
何だよそれ!
「気にしないで、またここに、何百年後かのここにいるんだから。前の勇者なんて世のためってスパっとしてくれたよ」
いや、あの人は特別だよ。織田信長。
「気にする。なあ、強いんだよな? 魔物をやっつけまくれるぐらい?」
「う、うん。そうね。やろうと思えば」
「じゃあ、やったら? 君が世界中の魔物を倒して回れば?」
「え? 私が魔物を倒して回る……」
袖を引っ張られる。振り向くとリンだ。
「なんでそういう話になるの?」
「だって可哀想だろ? 倒される為に生まれて死んで、また転生なんて!」
転生した経験があるからわかる。以前の記憶などなければいいとどれだけ思ったか。
「トオル優しいにも程が……」
「勇者名前をトオルというのか!」
バッチリこちらの会話が少女に聞こえてたみたいだ。
「勇者も転生してこちらに来ていると聞いたけど」
「ああ、そうだけど」
なんの話だ?
「私に新しい生き方を教えてくれたトオル! 私の力であちらに戻してあげようか?」
「え! 出来るの?」
「戻ってやり残した事をしたいとかあるか」
「あるけど……」
部屋に置いておいた服を思い出す。蘭……。
「では!」
え! もう、ええええええ! まだ俺!
目を開ける。
ピ・ピ・ピ・ピ……
という機械の音と
シュコーシュコー
という俺の呼吸機の音。
手足どころか頭さえ動かない。
魔王! どういう環境での転生なんだよ。これじゃあ、やり残したことやらずに死ぬじゃないか!
俺の怒りに反応したんだろうか機械の音が変わる。
ピーピー
「透!」
誰かが駆け寄ってきた。母かと思ったら蘭だった。蘭……バイバイ。
再び俺は暗闇に引きづり込まれる。
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