第24話 勇者のイメージ
夕方に目を覚ます。服のこと考えてたらいつの間にか寝ていた。起き上がり諦めてリンが買ってくれた服を出す。そして、思い出した。
リンは蘭に少し似ている。向こうで唯一俺と仲がいいと言えたのは速水蘭だった。
家が隣同士で同い年だったために小さい頃から母親同士が仲が良くて、ずっと家族での付き合いだった。俺も小さい頃にはよく蘭と遊んだ。小学生になり学年が上がるにつれて俺は蘭を避けるようになった。中学生になると、話もしないしワザと避けた。高校も同じになったが相変わらず俺は蘭を避け続けた。理由はただ一つ。蘭が好きだったからだ。
蘭は華やかで人気もあった。性格も明るくて……つまり俺は蘭に嫌われてるか確認するのが怖かったんだ。だから、避けた。
高校二年になって同じクラスになった途端、蘭はやたらと俺に構い出した。
家が隣なのをいいことに母親に言って休みの度に買い物に連れ出されたり、あちこち連れまわされた。
なぜ、突然そんな事をはじめたのか全くわからないし、もう知りようがないが、蘭がついでだと言って俺に服を買ってくれた事を思い出した。あの服は着ないまま俺の部屋にある。いや、試着はした。もらったその日に自分の部屋で着てみただけだ。でも、蘭に今度蘭と出かける時に着て来てと言われいていたんで、おいておいたんだ。
結局その日が来る前に事故にあったんだけど。
あー! 湿っぽい、湿っぽいぞ、俺。前の自分の事は今はもう関係ない! 今はこの服をどうするかだよ。
とりあえず袖はボタンを外して肘までまくる。黒のネクタイは外して、胸のボタンも外せるだけ外そう。ズボンはどうしようも無いな。黒の長ズボン。動きにくい。戦闘してるって意識はあるのか、リンは? どんなイメージを勇者に抱いているのかわからないが着崩し過ぎで怒られそうだ。
とりあえずこれで甲板に出て行く、ダメだしされたらやり直し出来るように。が、やり直ししたくないなあ。
「あ! トオル。着てくれたの! あれ? ネクタイは? 外しちゃったの?」
「ああ。戦ってる最中危険だから」
「ああ、そうだね。うん」
残念そうなリンだけど、納得してくれたみたいだ。でも、この服も戦いに向いてないんだけどな! って言いたいが堪えよう。すでに不服そうなリンには触れないでおこう。
「じゃあ、ご飯食べてくるから!」
とっとと、その場を去る。みんな服見て安全確認したし。まあ、ツバキのはわかりにくいが。
ご飯も無事に食べ終えた。あの辺りが魔物の巣ばっかりだったんだろうか、あれ以来大量襲撃はない。まあ、全体的に数は増えているが。
甲板に出てもう一度声をかける。
「今日は大丈夫だったか? 何かあったか?」
「今日は大丈夫だよ。なんか一気に落ち着いた」
「この辺は少ないのかもね」
「ね、ね、もうちょっと……」
リンの願いはろくな結果を生みそうにない。
「ああ、じゃあ。交代。お疲れさん! みんなよく休めよ!」
話を強引に終わらせた。いったいリンはもうちょっと俺に何をさせようとしたんだ。気になるけど放っておこう。
「おお! 坊主も衣装替えか? 面白いなお前らは!」
ダメか、最大限に着崩したがダメだった。
「ああ、あの、魔物に服破かれたんでこの前寄った街で服を買っててくれてて」
言い訳出るよ。やっぱり。
「そうかあ! 仲いいな。なかなか面白い勇者だな。勇者伝説が楽しみだよ!」
この人ひそかに勇者伝説のファンだな。絶対。魔王を倒してくれとかいう言葉出ないし。目的が伝説読むことみたいだな。
「はあ」
魔王の城にたどり着くあてもなく、さらには魔王を倒す気すら起きないのに、もう勇者伝説って伝説の話をされてもな。
「じゃあ、今日も頼むぞ!」
俺何時の間にかすっかりあてにされてる。
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