第21話 勇者伝説をポロっと言う

「交代するぞ!」

 船長の一言で入れ替わる。

「トオル。気をつけてね」

「ああ」

 ジュジュは心配そうだな。

「服、着てくれたんだな!」

「うん。着心地いいよ。ありがとう」

「うん」

 やたらと素直なツバキの後ろ、むくれたメイドがいるよ。自分のあげた服を着なかったから怒ってる? リン。

「リン。明日は着るよ。ね。うん」

 ポンポンと頭を撫でてなんとかしようと頑張ってみる。

「うん。明日ね」

 あれ? あっさりメイドの機嫌が直った。なんだかわかんないが良かった。



 さあて、今日は何が出るか。魔物だけどな。



 *



「おう! 坊主! 街は見たか?」

「いいえ。寝てました。出港してから起きたんで街を見るのは見たんだけど、大きな街ですね」

 その大きな街にしてやられたんだけどな。

「ああ、でも次の最終目的地の街はもっとデカイぞ。なにせ海の中心地だからな、世界中の物が集まって大にぎわいだ。まあ最近じゃ魔物が増えて徐々に衰えてるがな」

「へえー」

 他人事な返事をしているが他人事じゃない! 世界中って! 何でもあるんだろ? ヤバイ。あの三人が理想の服を見つけるんじゃないのか。

 俺の焦りとは関係なく船長の話は進む。

「まあ、勇者のお前には関係ないな。しかし、お前の連れてる連中すごいな」

「ああ、まあ」

 そうだよな。すごいよな。

「最初に乗せた時は人数合わせ程度に見てたんだが……」

 やっぱりそうだったんだ。

「いや、あの魔法使い若いからかな、成長が早いな。もう火柱まで出すとは」

 え? 火柱? 聞いてないよ。俺。え? ニタ、俺に服を見せてる場合じゃないよな?

「それにあの刀の子も素早く次々と切り倒してくし」

 そういえばツバキの切り口がさらに深くなってた。魔物のダメージが大きくなってる。

「あと、あの造形魔法の子も数を落としてくれるから大助かりだよ」

 まあ、丸、三角、四角なんだけどな。

「あとは、フェ……あの子だけど」

「他の人も治癒してるんですか?」

 フェアリーの治癒についてはわからないけど、頻繁に使ったらいけなさそうだけど、この船内だ。負傷者が大勢いてもおかしくない。

「いや、魔術師がたくさんいるからな。それにそんなに負傷者出てないよ。あ、でも昼間に君んとこの魔法使いが胸を切られてたとか。その時には頑張ってくれたよ。胸の傷だとただの魔術師じゃあ、なかなか治らないからな」

「え!? ニタが!」

 それで服買ってたんだな。胸を切られたなら服はボロボロだろう。っていうか! 服の報告が何で優先なんだよ。大事な話なのに。

「聞いてないんだな」

「ええ」

「心配かけたくないんだろうな。君たちは仲がいいな。勇者伝説には仲睦まじい勇者達はいなかったなあ」

 そうだな。俺たちってなんだかんだと仲がいいな。俺にとって向こうの世界では仲が良かったのはただ一人だったのに。こっちに来たら四人もできるなんて。しかも魔王を倒しに行く旅なのに。

 ん? というかなぜに船長は知ってるんだ。そんな細かい話を。まさかずっと起きてる程タフなわけないよな?

「あの、船長なんでそんなに詳しいんです? 昼間も起きてるってことはないですよね?」

「ああ。昼間は副船長が仕切っている。もちろ副船長が船も動かしてる」

 だよな。眠ってる間も魔法かけてたらすごいよな。

「昼間に起こったことや変化は副船長から細かく報告受けてるからな。まあ一応俺が船長だからな」

 そりゃそうだな。こんな危ない航海してるんだ。昼間の戦力もちゃんと聞いておいて把握しないとな。って一応なのかよ。

 あ! それでか。報告だけだからか。服装についての話がないのは。

「しかし、変わった服装だな! お前たち! 見てて面白いよ」

 バッチリ見られてたよ。

「あはは」

 笑っとこう。明日は俺も仲間入りだ。言い訳するだけ苦しくなる。



 *



「魔物! 右!」


 夜警絶対サボってるよ。短くなりすぎだ。

 右側に走りながら思う。今度は何だ?


 おお! 進化か? 進化するのか魔物? 貝が、あっと、巻いてない二枚貝の方が、なんかいつもと違う。もう貝の間からべローンって紫色の中身を出してる。手もなんかイガイガついてるし、違う種類なのかわからないが、かなり手強そうだ。イガイガが手の甲で良かったよ。船が先にやられるところだ。魔物は並んで登ってくる。よし! 一気に切り裂く。次もすぐに上がってくる。次々に一文字で切り裂く。これなかったら一苦労だったな。

 それにしても上に登ってきてる魔物に手だしできないのはイライラする。なんとかならないのか。さらに一文字で切りながら一文字の応用で下の魔物をやっつけられないか考える。難しい。船も傷つけそうだ。剣士で下を攻撃してる人はいないから無理なんだろう。諦めて目の前にいる魔物に集中しよう。


 魔物は結構な数だったが、やっと終わった。甲板も無事。これって結構大きいんだよなあ。疲労度。終わったって思ったらこれ? って気分になるんだよな。



「おう、坊主!」

 ひょっとして船長話相手がいないのか?

「お前も腕をあげたな!!」

 嬉しそうに横に座ってくる。この人って。

「それにしもまだまだ長いな。塔も行かないといけないしな!」

「塔?」

 あ、しまったって顔してるけど、絶対そこまでしまったって思ってないなこの人。なんなら勇者伝説語り出しそうだし。

「ああ、まあいいか。到着した街の北側にある塔にお前のマントがあるんだよ。炎にも氷にもなんでも魔法の攻撃を防御するマント」

「本当に!」

 それめっちゃいい! 欲しいよ!

「ああ、ま。一回きりだから魔王の時に使うんだけどな」

 だよね、そうだったよな。腕輪も。

「はあ」

 気が抜けた返事にもなるだろ? これは。

「まあ、お供もなんだ、あるしな。頑張れよ! 坊主!」

 あ、船長逃げた。絶対逃げたな。勇者に伝説を話した上に、やる気削いだもんな。

 でも、そのマント魔王だけしか使わなくてもいるよな。だって魔王だよ。魔、魔! 魔法でやられるのわかってて、突っ込むの嫌だよ。

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