第13話 魔術師とフェアリーの卵

「魔物だー! 右側から登って来るぞー!」


俺たちのひどくのんびりした会話は夜警の声で遮られた。

ああ、間に合わなかった。俺の体は感覚が戻ってきたものの痺れている。とても、戦えない。

「トオル、じゃあ。見ててね! かなーり切るとこ!」

「行ってくるね」

俺の頭をジュジュの膝に置いてツバキは嬉しげに右側へと向かう。リンも後に続く。

また頭を膝に置かれたし。でも、頭を膝からどかせば考えたら板の上だ。それはちょっと今は辛いな。




なんて思ってたら戦闘開始だ。次々に切ったり魔法をかけたり。またもや魔物の悲鳴と水の音が聞こえてくる。ツバキはと見ると。おお、本当にかなーりだな。魔物の傷が深くなってる。妖刀、如月が異様な迫力だ。ん? なんか迫力増してないか? ツバキの力で妖刀も力が強くなるのかな?……妖力……魔力……どう違うんだろう?



そんな本当にどうでもいい俺の疑問をよそに、どんどん魔物を倒している人達。ああ、寝てるのが申し訳ない。ジュジュっていつもこんな気持ちで待っているんだろうな。ジュジュはいつも俺たちの戦闘後には申し訳なさそうにしてるから。



バシャーン


どうやら今のが最後の一匹だったらしいみんな疲れた様子で戻ってくる。


そこに一人浮かれているツバキは俺へと一直線だ。さっきの順番だったからか、俺の頭を自分の膝に戻して話をはじめる。

「ね、ね! 見た? 見た?」

ああ、顔が近いよ、必死過ぎるよツバキ。

「見たよ。すごい切れてたな。本当にもうすぐスッパリいきそうだよ。それに如月の覇気もすごい迫力だったぞ。お前に反応してるんだろうな」

言い切ったよ俺の感想。ツバキまだ近いよ顔。

「ね、ね! そうでしょ! 如月も!」

ああ、如月の話になるとうっとりするツバキ。猫耳にうっとりするリンとかぶって見えてきた。

「順番だよ」

なんだか機嫌の悪いリン。今は勘弁してくれ。ご機嫌とりはできない。

そして俺の頭はリンの膝へ。

なんだかリンの機嫌がなおったようだ。よかった。機嫌よく話がはじまった。それにしてもまだ治らないのか! 次の戦闘には参加しないと。このまま三人に徹夜させるわけにいかない。






「魔物だー! また後ろからだー!」


ああ、嫌だ。体の痺れはなくなったのに体に力が入らない。少し起き上がったけど、無理だった。諦めるしかない。また三人に押さえられたけれど、なんでジュジュ以外のリンとツバキに俺の状態がわかるんだ?

ジュジュに俺の頭を乗せたリンとツバキは後ろに消えた。頭を動かせるけど、後ろは見えない。怪我するなよリン、ツバキ! 俺は怪我して寝てるけど。



後ろからまたもや魔物の悲鳴と水に落ちる音が響く。あー、情けない。見ることも出来ないなんて。もう三回目の戦闘をリンとツバキはしている。二人ともそろそろ休まないと昼間の戦闘で疲れてるんだから。それにジュジュも治癒しっぱなしだ。




次は俺、戦えるのか?





後ろが静かになった。と、バタバタと複数の足音がする。と、こちらに運ばれてくる人影。リン? ツバキか? 頭を持ち上げて見てるが見えない。



「魔術師を! 魔術師を起こして来い!」

船長の声が響く。夜警とは別に甲板に船乗りが居眠り半分で、こちらも交代でいたけど、魔術師呼ぶためにいたんだな。

俺の横に並べられる剣士の姿にホッとする。こちらに向かってくるリンとツバキ。良かった、リンでもツバキでもなかった。



剣士は起こされて連れて来られた魔術師の治療を受けている。剣士の怪我は浅いのか顔色もいいし大丈夫そうだ。毒もなかったんだな。



ああ、そういうことか。俺の顔色最悪なんだな。だから、リンもツバキも俺を引き止めるんだな。



それにしても船長、俺の治療に魔術師呼ばなかった。ジュジュを呼んでいる。昼間も俺がジュジュに治療をされていたからか。魔術師じゃあ、ヤバかったかもな。魔術師の治療を見てるがジュジュの方が治癒が早い。切られただけならジュジュが治癒すればすぐに治ったけど、剣士を治す魔術師は時間がかかってる。

フェアリーの卵が狙われるはずだよ。この力すごい。これでもまだまだなんだよな。ジュジュは早目に旅に出たんだ、本当ならフェアリーが旅に出るのは十八だもんな。

ジュジュ、世界樹に早くついても入れてもらえるのか? まだまだ先の世界樹の事を考える俺。

そこまで考えて、この先は長いんだよなと気づく。船の上に一日いただけでウンザリしてる、俺たち魔王の城まで行けるのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る