失恋?成就?

「麻衣~、フラれちゃったよぅ」

 志穂が帰ってきての第一声がそれだった。わたしは心の中だけで名前も知らないその相手の男に感謝した。

「何~、わたしがフラれたのがそんなに嬉しいの?」

「違う違う。これでお酒を飲む大義名分ができたなぁ、って、思っただけだよ。志穂がフラれてラッキーだなんて思ってないから」

「本当にぃ?」

 顔を赤らめて、上目遣いで聞いてくる。あれ、もしかして、志穂、もう酔ってる?

「うん、本当。ところで、もう飲んでる?」

「えぇ、飲んでないよぉ」

 でも、わたしに抱きついてきた。

 志穂は酔うとものすごい甘えたがりになる。で、わたしはそんな志穂が大好きだ。

 そして、普段飲むときは二人で飲むことが多いわけで。今のような、志穂だけが酔ってて、わたしが素面だなんて状況、めったにない!

 と言うことは、今日は思う存分、甘えた志穂を堪能できる!

「ねぇ、聞いれるの、麻衣?」

「うん、聞いてるよ。志穂、大好き」

「えへへぇ。わらしもぉ」

 あれ?なんか、さっきより酔いが進んでない?よく見ると、抱きついた姿勢のまま、コンビニかどこかで買ってきたのであろう缶チューハイを飲んでいた。

「あいつにはふられらけど、麻衣ろは両想いだぁ。じゃぁ、結婚だ。結婚しよ、麻衣~」

 さらにきつく抱き締めてくる。わたしも志穂を抱き締める。

 だって、こんな可愛い志穂が結婚とか言ってくれるんだよ?これは、もう、えぇと、ヨーロッパのどこかの国に行くしかない!同性婚、できる国あったよね?

「麻衣、愛しれゆ」

「志穂、わたしも愛してるよ」

 わたしたちは誰も見ていないけど、キスをした。これ、誓いのキスってことでいいよね?




 翌朝、志穂は全てを忘れていた。

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