第3話 コウカイニッシ

 望遠鏡を覗くとき、世界は曖昧になる。

 小さな星々が大きく輝いて見えるし、それらはより朧気にある。

 宇宙を見上げると、星は星、陽は陽ですらない。ただそこにある何かなのだ。それぞれが主張するわけでもない。ただそこにあって、輝いているだけなのだ。


 そういったものを見ると、自分のちっぽけさにいつか気づく。そのちっぽけさが、「僕は僕」と素直に気づかせてくれた。また、僕らはただあるがままを受け入れることが自然の摂理なのだとも理解させてくれた。高校生の夏のことだ。


 宇宙を見上げている時間、僕は宇宙飛行士だった。その小さな身体で星を見てまわる一人の人間だった。今までに幾度も宇宙を駆けたし、様々な星のぬくもりを感じた。「ただそこにあるだけ」という自然がぬくもりだった。


 そのぬくもりを求めて宇宙へ現実逃避することも多かった。だがその度に、ちっぽけさが僕を現実へと帰らせてくれるのだ。「ただあるがままですべてを受け入れる」という人間の役割を思い出させてくれたのだ。


 その宇宙は僕だけしかいなかったし、僕だけの目から見えた。目を閉じてもその宇宙は思い出されて、ようやく気づいた。僕のなかにも宇宙はあったのだ。

 むしろ、僕は僕のなかの宇宙を見ていたと思う。

 宇宙のなかに僕はある。ちっぽけにある。振り返れば、ただそこにあるものが輝いていた。

 宇宙飛行士は何度も宇宙へと駆ける。そしてその度に思い知らされる。だけど僕はそれが好きだった。

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