このおめでたいニュースに祝福を!【2】

「……なんで仮にも女神の私が側室なのよ。私……女神なんですけど。百歩譲っても……。あの……。正室なんですけど……」


…………。


あれ、おかしいぞ。

王城でゴロゴロと贅沢三昧できる、とか言って真っ先に食いついてきそうなものなのに。

もしくは、何バカなこと口走っているのヒキニート、とかなんとかギャーギャーわめきそうなものなのに。

この反応は予想外だ。

やっぱりアクアは最近なんかおかしい。


「……ちょっと私……ウィズのところに……お茶でも飲みに行ってくる……ぐずっ……今日はウィズのとこに泊めてもらうからっ……ひっぐ……」

今にも泣きそうな顔をしたアクアは、とぼとぼとした足取りで屋敷を出て行った。


なんだろう、この罪悪感は。


「……おい、アクアは一体どうしたんだ。頭でも打ったのか」

俺はめぐみんに問いかけると。


「……はあ、この男は。最低だとは知っていましたが、……本当に最低ですね。私はなんでこんな男を好きになってしまったんでしょうか」

めぐみんは心底呆れたような声で呟く。


とりあえずアクアは放っておくとして、まずはめぐみんの返事を聞かなくては。

「な、なあ……めぐみん。めぐみんは——」

「カズマ、気持ちは嬉しいですが、返事はちょっと待っててくださいね。……私も寂しがり屋の親友のところに相談でもしにいきましょうかね」


あれ?

まさかのお預け。

こんなはずでは。

俺の完璧なハーレム計画が崩れていく音がした。


「それでは、カズマ。明日には戻ってきますから」

めぐみんもそう言って屋敷をでると。

広間には、真っ赤な顔をしたダクネスとすっかり気落ちした俺だけが残された。




お互い無言のまま、時間だけが過ぎてゆく。


やがてダクネスが俯きながら、ぽつりぽつりと独白を始めた。

「……側室か。仮にも大貴族の私が側室とは……。……家柄からいっても、実績からいっても、私は王の正妃としても釣りあうのだぞ。側室になんてなったら、国中の貴族から何と言われることやら……」


ダクネスは、顔を伏せたまま尚も続ける。


「……しかし、私はあのときお前に救ってもらった身だ。もう私は……お前のものだからな。……そ、それにお前はめぐみんを選ぶと思っていたから……。……あ、愛人でも仕方ないと、ずっと考えていたのだ。まさか、めぐみんではなくアイリス様がお前の妻になってしまうとは思いもよらなかったが……」

「そ、そんなこと考えていたのか」


ごくり。


ダクネスは何か吹っ切れたように、笑顔をこっちにむけると。

「……前にも言ったが、私はお前のことが好きだ。だから……不束者ですが、宜しくお願いします……」


「ダ、ダクネス……!!」

ああ、ヤバイ。


嬉しい。

ああ、これだ。

俺が求めていたハーレムエンドはここにあったんだ。

こういうのでいいんだよ、こういうので。

ちょっと計画は狂ったけど、結果オーライだ。


「……カズマ」

ダクネスは俺の頬を愛おしげに撫でると、顔をゆっくりと近づけてきた。

俺の唇に柔らかいものがぴとりと押し付けられる。

「はぁ……キスもこれで二回目だな……、こ、これ以上はまだ……み、未体験だが……」

婚前だというのに、これはイケナイ。

だがこうなってしまっては仕方ない。

俺はこのまま流されることにした。


ダクネスはゆっくりと俺の体を押し倒し……。



バンと屋敷の入り口が開けられた。


「忘れ物を取りにきました」

開けられた玄関のドアの前に立っていたのは、不機嫌そうな表情のめぐみんだった。


俺はダクネスに乗り掛かられたまま、顔を背ける。

「こいつが無理矢理やりました」

「ああっ!?」




めぐみんは俺からダクネスを引き剥がすと。

「全く、ダクネスは油断も隙もありませんね。戻ってきて正解でしたよ。紅魔族は知能がとても高いのです、頭の中がピンク色のダクネスの行動なんて手に取るようにわかりますよ! 求婚されて嬉しいからといって、すぐ盛ってしまうなんてなんというエロい娘なんでしょう! さあ、ダクネス。求婚の返事をしたのなら、とっとと行きますよ。ダクネスも父親に報告したりと、色々とすることがあるでしょう!? 今日は実家にでも泊まってください! カズマと二人っきりにはさせませんよ!」


泣きそうな顔をしたダクネスを、めぐみんがズルズルと屋敷の外まで引っ張ってゆく。

チラッとめぐみんが俺の方を一瞥すると。

「安心してください、カズマ。私はあなたのことが大好きですよ。だから返事は期待して待っててください。今日はゆんゆんのとこでも泊まります。おやすみなさい」

嬉しそうな顔をしためぐみんと、悲しげな顔をしたダクネスは屋敷を出て行った。


ぽつりと俺一人が屋敷に残される。


えっと……。

なんで俺一人になってるんだろう。

この昂ぶった気持ちはどうすれば……。




俺はソファーにもたれかかると、初級魔法を使って即席でコーヒーを入れる。


……ふう。


色々とあったが、ハーレム計画はおおむね順調だ。

ダクネスはハーレム入り確定だし、めぐみんだっておそらく大丈夫だろう。

アクアはよくわからないが、あいつがよくわからないのはいつものことだし問題はない。


あとは、あの三人以外だな。

年上の癒やし系お姉さんであるウィズや、幸薄いゆんゆんなんかもいいな。

最近影が薄いクール系お姉さんのセナだって入れていい。

あとは一粒で二度美味しい——


その時だった。

玄関のドアがノックされ、ガチャリと開けられる。

「お邪魔するよー。あれ、今日はキミ一人なの?」


やってきたのは、一粒で二度美味しい活発系元気娘かつ王道派ヒロインの、クリスだった。

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ヤンデレエリス もょもと @moxyomoto

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