主人公を殺す。それが俺の仕事だ

@tanpenmaru

彼の日常

 駅前のコインパーキング。それが今日の寝床だった。


 朝日がゆっくりと昇る様を眺めながら時間が経つのをじっと待つ。


 午前七時。午前八時。午前九時。午前十時。俺は身じろぎ一つせずその場に佇む。

そして、午前十一時。ついに予定の時刻となった。


 コインパーキングを出た俺はビル群の中を走り抜けた。行き先は都心郊外のとあるベッドタウンだ。


 そこで、俺は人を殺す。


 これでも一応その筋のエキスパートだ。似たような事はこれまでに何度もやってきた。


 戸惑いはない。迷いもない。後悔なんて、あるわけない。これは自分で選んだ道だ。覚悟はとっくの昔にできている。


 俺は四肢に力を籠め、ベッドタウンの中を進んだ。


 目的地が見えた。変哲もない交差点。依頼人からの情報によれば、今日の午前十一時四十分頃に標的が一人でこの交差点に来るらしい。


 近くのコンビニで様子見すること数分、標的と思わしき人物が横断歩道の前に立った。


 黒髪の少年。中肉中背。服装は灰色のパーカーとジーパン。赤いショルダーバッグ。依頼人からの情報と合致している。あの少年が今回の標的とみて間違いない。


 俺はコンビニの駐車場を出てゆっくりと標的に近づいた。


 歩行者用の信号が青になった。標的は横断歩道へと一歩足を踏み出した。


 それと同時に、俺は全速力で走った。目の前には唖然とした表情の標的がいたが、気にせずそのまま駆け抜ける。


 道路に鮮血が飛び散った。標的は宙を舞い歩道へと落下。程無くして、標的の体を中心に赤い水たまりが出来上がった。


 さらばだ少年。君が俺の事をどう思うかは分からないが、俺は君の第二の人生、幸多からん事を願っている。


 表情を歪ませながら、俺はその場を後にした。


 俺は死なない。故に地獄へ落ちることもない。


 俺は認識されない。故に法律で裁かれることもない。


 俺にふさわしい罰があるとするなら、この行為こそが俺に与えられた罰。


 世界に囚われ、誰にも気付かれることなく、ただ延々と人を殺す日々。


 人によっては俺の行為を不毛、非人道的だと思う者もいるかもしれない。


 だが、これは必要な事なのだ。人が生きるために動物を殺すのと同じで、世界を始めるためには俺が誰かを殺さないといけない。


 だから、俺は今日も人を殺す。


 俺の名はトラック。主人公を殺すのが、俺の仕事だ。

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