手招いた、冬。

 閉じこもる生活は温かいです。

 でも、どこか寒いです。

 怖い思いをしなくていいという安心感はあるのに。やはり、一人でいることが寂しいからでしょうか。そう思うのは今でも時々、会長の凜々しい笑みを頭の中に思い描いてしまうからでしょうか。



 時々、泣いてしまいます。

 幼い頃に抱いた「高校生」という憧れはもう捨てたはずなのに。

 勉強なんかしなくていい。

 友達なんかいなくていい。

 部活なんか入らなくていい。

 それでも、私という一人の女の子はこうして生きている。部屋に閉じこもった生活を送っても、生きるということが確かにできているのです。

 それなのに、泣いてしまうのです。



 ――運命の人と恋ができなくていい。



 きっと、これだけは諦めることができないからでしょう。

 それもそのはずです。何故なら、クラスメイトから散々否定されても、会長に対する私の恋心は一度も消えなかったのですから。それに、会長から直接、私が遠くから自分のことを見られているのが嫌だと言われたわけではないのですから。

 ――一度でいいから、会長に会ってみたい。話してみたい。

 そんなことを考えても、会長とは会うこともできなければ、話すことのできない日々が続くのでした。当たり前ですよね。私は家という名の殻に閉じこもってしまっているのですから。会長の方からその殻を割ってくれるようなこともないでしょう。



 そして、今年も間もなくあの日がやってくるのです。

 12月25日。クリスマス。

 この日が一年の中で一番幸せな日だと言う人もいて。それなのに、どうして25日よりもクリスマスイブの今日の方が盛り上がるのでしょう。よく分かりません。思わず笑ってしまうほどです。



 クリスマスになるまであと10分。

 去年までは家族と一緒に過ごしたのでそれなりに楽しかったのですが、今年は一人だったので何とも言えない気分です。楽しい気持ちはこれっぽっちもない、ということだけは断言できるのですが。

 今年が一番楽しいクリスマスになるには、相当強い魔法にかからない限りあり得ないでしょう。

 ――コンコン。

 扉からノック音がしました。閉じこもってからこんなことは初めてだったので、鳥肌が立ってしまいました。

 ――扉を開けるのがとても怖い。

 ――でも、扉の向こうには私のことを待っている人がいる。

 そんなことを考えていると、気付けば私は扉の前に立っていました。外に誰がいるのが分からないのに、私は迷いなく、でも、慎重に玄関を開けてみました。



「メリークリスマス」



 そこにいたのは一番会いたい人で、そこにいるのが一番信じられない人でした。



「……生徒会長、さん」



 私の目の前に立っていたのは、私服姿の生徒会長だったのです。今の生徒会長はかつて、私の頭の中にいたときと同じように、私に優しく微笑みかけてくれていたのでした。

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