成績上げはお化け屋敷にて!?

お豆三四郎

霊1:入学はお化け屋敷にて

拝啓、我が愛しのお母様お父様。


春爛漫の好季節を迎え、毎日お元気でご活躍のことと存じます。


そちらは何か変わりありませんか?


隣の佐々木さんの奥さんは無事に子供を出産することは出来ましたか?


アイドルの矢中真里はそろそろテレビ復帰を果たしましたか?


他にも色々と聞きたいことはありますが今回はこの程度にしておきます。


さて、こんな手紙を書いて送る位なのでおわかりかと思いますが僕はいたって元気です。


母さんがやっていた炊事洗濯はもうお手の物となりました。


そういえば最近僕の部屋の近くに小豆洗い君が引っ越してきました。


夜になるといつもジャリジャリと小豆を洗い始めるので、そろそろ殴り込みにいこうと思っています。


もしくは小豆を焼き払うかで悩んでいます。


さて、今日も今日とて亡霊に魂を抜かれないように塩を体に塗りたくって僕は生きていきます。


敬具。


「よしっ、これでOK!あとは電波が届くのを信じて送信するのみだね!」


「いやそこは手紙じゃねぇのかよっ!?」


年季の入ったカビ臭いほころびた畳や所々に穴があいたボロボロの障子が取り囲む古びた屋敷を連想させる空間で声が響く。


慣れない手つきでポチポチ作業を繰り返していた僕の携帯が、その声の後につられるように手を離れ空を舞った。


そうというのも僕の隣に座っていたクラスメイトの狼男が携帯を持っていた僕の手を蹴り飛ばしたからだ。


カビの生えた畳に転がっているそれを急いで取り上げた僕は、キッと狼男君を睨みつける。


「な、なにしてくれるんだこの馬鹿わんこが!これは僕が唯一人間界からもってきた大切な代物なんだぞ!?YOUはthatを弁償できるっていうの!?」


「手に持ってる段階でそいつはthisになるんだぜ劣等生?」


「あ、そうなの?じゃあ言い換えるね。……コホン!もしこの携帯電話thisが壊れてたらthatを弁償できんのか!?」


「………お前はまず携帯電話の前にその頭をどうにかしないといけないんじゃないか?」


僕の発言にやれやれと頭を抱える狼男……もとい狼牙ろうがという名前のファントム。


さて、ファントムや狼男といった日常においてまず聞くことのない摩訶不思議な単語に頭を悩ませている人にむけて説明をしておこうと思う。


僕はお化けや妖怪がいる霊世界なるところで元気に住んでいます。


以上。


「いやいや流石に雑すぎるだろお前!?こんな端的な説明で納得できる奴がいるわけねぇだろうが!」


「え?僕は今目に見えないでも確かに感じる誰かの視線に答える為に短くまとめたつもりだったんだけどダメだった?」


「メタい事を平気な顔して言ってんじゃねぇ!っていうかちょっとかっこよく言うな腹立つから」


「全く狼牙は器が小さいなぁ。そんなんだから丸いものをみただけで興奮するんだよ、この万年発情期めーって言ってる間に僕の顔を鷲掴みにしてからの目玉をくり抜こうとするのは止めてぇぇぇっ!!??」


「あー悪い悪い、丸いのに興奮しちまうからさお前の淀んだ目玉をえぐりたくて仕方なくなっちまったわーマズいなこりゃー取りあえずえぐっとくか」


「えぐっとくかじゃないよ!なにその試食感覚!?僕の目は二つしかない超レア素材なんだけど!?」


「いいだろ別に。減るもんじゃないし」


「減るよ!他人から見ても分かるくらい体のパーツの欠損が見受けられるよ!」


ああ、このまま僕は死ぬんだな。


そう思ったら現状を説明できずに消えるのがなんだかもったいなく感じてきた。


今時やられ役のモブでさえちゃんとした名前があてられるというのに、このままだと僕はさすらいの名無しさんとでも命名されそうな勢いじゃないか。


さしもの僕もそんなポジションで納得できるわけがない。


そういうわけで改めて説明をさせていただこうと思う。


僕、たちばな 直輝なおきは本来であれば高校生になるはずだったごく普通の人間だ。


高校の入学式に向かう途中、偶然近くの河川敷でツチノコを見つけた僕はテレビに売り払う……もとい重要な生物を保護しようとしてそれを追いかけている際にひょんなことで人間界とは別次元にあるこの霊世界なる場所に迷い込んでしまったのだ。


霊世界というのは人間界の真逆の次元に存在するものらしく、そこでは雪女やフランケンシュタインといった妖怪がファントムという名で生活している。


人間界とは真逆の次元ということはすなわちそれは僕ら人間が言うところの死後の世界にあたるらしく、本来であれば生身の体をもつ人間が立ち入ることは出来ない。


入れるのはファントムと魂だけになった霊魂だけである。


にもかかわらずどうして生身の体をもつ僕が入れたのかというと財布を膨らませる為に追いかけていた……もといお友達になるために追いかけていたツチノコが霊世界に逃げ込む為に開いた次元を行き来する扉にタイミング良く入ってしまったからに他ならない。


気付いたときには周りは既にスリラー状態だし元の世界に帰ろうにも一度霊世界に入った人間が元の世界に戻ることは法律上出来ないとかで結局こちらでの生活をやむなく選択させられたというわけである。


「ほんと馬鹿だよな直輝は。ツチノコなんてこっちの世界じゃ腐るほどいるっていうのに」


「こっちの世界では未確認で進行形だったの!ロマンを求める僕ら男子がまず最初に夢見る存在なの!」


それがこの霊世界ではカラス並の感覚でそこらに生息しているというのだから、今となってはありがたみもくそもあったものではない。


ちなみに煮ると旨い。   


「まあこうして学校にも通えて住むところも与えられて良かったじゃねぇか。なかなかの優遇っぷりだよ馬鹿のくせに」


「僕みたいな例は今までなかったとかで取りあえず一般的な生活は約束されてるみたい。といっても僕からしたらなにもかもが一般的とは程遠いんだけどね」


「ははっ、違いねぇや。俺らからしたらお前が珍しくて仕方ないからな」


そういって狼牙は鋭い犬歯をむき出しにして笑う。


僕の隣に座っているクラスメイトの狼牙は狼男である。


狼男といっても僕らが想像するような毛むくじゃらなものではない。


大きな体格と頭に生えた耳、そして犬歯と尻尾が人間にハッピーセットのおまけとしてつけられたような見た目をしている。


そんな僕らがいるのは霊世界にある高校で名前は“うらめし高校”という。


ひねりもなにもない妥協された名前の学校に僕は新入生という名目で入学を許可された。


というのも時期が時期だった為、転校生として扱うのはなにかと面倒だからということらしい。


だが、何度も言うがここはファントムの世界。


妖怪や幽霊が当たり前の世界に僕のような人間は珍しいらしく常に注目の的となっている。


最初は有名人みたいで嬉しいぞキャピ☆などと思っていたが、そのうち人間って珍味らしいとか、とりつくことが出来るとかそういったダークな部分の噂が行き渡りちょっとした世紀末を体験するはめになったのだから今となっては不幸極まりないだけである。


学校側もなんとかしようと思ったくれたらしく、考えに考えた結果『問題児だらけの所につっこんどけば目立たないし問題ないんじゃね?』とかいう適当な理由で僕は変人の中の変人が集まるこのクラスXに割り当てられたというわけである。


クラスは五つしかないのにどうしてAとかBではなくXなどという番号になったのかというと、ダメダメな連中という意味でXになったようだ。


僕からしたらXという番号は、×○の×の方に見えてしまうのだが、これは意図せずしてなってしまったという風に解釈して良いのだろうか?


とにもかくにも、こうして僕のファントムだらけの奇妙で摩訶不思議な物語は幕を開けた。

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