幸福童話1 シンデレラ編

■第一幕


 --昔々あるところに、シンデレラというとても美しい少女が居ました。

 でも、シンデレラはとても可哀想な少女でした。優しいお母様が亡くなって、意地悪な継母とその連れ子のお義姉さんがやって来たのです。シンデレラは毎日毎日継母と義姉に虐められているのでした。


「シンデレラ、シンデレラ。ちょっといらっしゃい、シンデレラ」

「何でしょうか? お義母様」

「うわっ! デカいシンデレラ! しかも黒衣のドレスって……!!」

「文句は作者に言って下さい。それにしても、貴女が私の継母だとは、笑止千万ですねぇ、小鳥さん」

「ふっふっふ。その作者に頼み込んで、この配役にして貰ったのよ。

  積年の恨み、晴らしてやるわ! 覚悟しなさい、陰険執事!」

「朱里……じゃなかった、シンデレラ。お前、そのズルズル似合わねぇなぁ~」

「あら、ダグラスお義姉様は、とてもお似合いでいらしてよ。

  そのフリルとリボンだらけのピンクのドレスに、くわえ煙草がステキですわ」

「……随分と役に成りきってしゃべるじゃねぇか」

「やると決めましたからには、やはり完璧でありませんと」

「完璧主義の執事ってぇのは怖ぇよなぁ~」


「いいのよ。彼に完璧に役を演じて貰ってこそ、わたしも継母になった甲斐があるってもんだわ!

  さあ、いいこと? シンデレラ、家中の廊下を牛乳で磨き上げるのよ。モチロン雑巾を使ってね!」

「それなら、もう、とっくに終わりましたわ。お義母様」

「えぇ、そんな何時の間に!?」

「お義母様が某国営放送アニメ・おじゃる丸を観て笑い転げていらっしゃる間にですわ」

「むぅ、イイじゃないの。アニメくらい観たって~」

「悪いなどとは申しておりませんわ。

  ただ、余り大口を開けてお笑いになると笑いじわが増えておしまいになるかも、と」

「失礼ね、小じわなんかナイわよ、まだまだピチピチに若いんだから!

  ……あ、なにそこで含み笑いしてんのよ! ムッチャクッチャに感じ悪~い」

「おい、シンデレラ、頼むからロングドレス姿で笑ってくれるな……ビジュアル的にスゴすぎる」

「それは失敬。……ところで、お義母様、他にご用はございますの?」


「ええ、ええ。モチロンよ、シンデレラ!

  かまどにくべる薪を沢山集めていらっしゃい。そして、文字通り灰かぶりになって働くのよ!

  ホーッホッホ!!」

「お義母様、今は春ですわ。もう薪は必要ないと思います」

「う、うっさいわねぇ。とにかく、あんたが悔し涙にくれるまで、働いて働いて働きまくるのよ!

  わたしのイジメ返しを受けるのよ! わたしの恨みを思い知るのよ!」

「ああ、分かりました。お義母様はお菓子の食べ過ぎでダイエットをなさりたいのですわね。

  それでサウナでも用意しろとおっしゃるのなら、私喜んで幾らでも薪を集めて参りますわ」

「……何かさっきから見てっと、どうも継母よりシンデレラの方が強いんじゃねぇか?」

「く、悔しい~~~」

「小鳥、お前さんの方が涙にくれてどうするよ?」

「こんなの『シンデレラ』じゃない~ こんな性格悪いシンデレラなんかイ~ヤ~~~~~~」

「俺、もぅ、帰りてぇ……」


■第二幕


 --まあ、そんなこんなでイロイロあって……。

 今日はお城で舞踏会が開かれる日です。意地悪なお義母様とお義姉様は、美しいドレスに身を包み、立派な馬車に飛び乗って、お城へ出かけていきました。勿論シンデレラは可哀想にお留守番です。継母小鳥、してやったり! です。


「ふぅむ。さてさて、困りましたね。この配役で行くと多分お城の王子様は……

  これはどうあっても、私もお城へ急がなければ……」

 --そこへ現われたのは、フードを被った魔法使い。

「お城へ行かせてあげようか?」

「おや? そのお声は白野様。これは意表を突かれました。作者もなかなかやりますね」

「作者の人が、フード被って魔法の杖持った僕を見てみたいんだって」

「……通ですね」

「っていうか、提灯ブルマーの僕だけは死んでも書きたくないんだって」

「……まだまだ分かっていませんね」


「何ぼそぼそ言ってるの?」

「いえ、どうかお気になさらず。話を先に進めましょう」

「うん。えーっとね、台本に寄ると、魔法使いは先ず、ネズミを馬に変えて……」

「あ、申し訳ありません。ネズミは先日全て駆除してしまいました」

「じゃあ、そこは飛ばそう。えーっと、次は大きなカボチャで馬車を……」

「……いいえ、馬車は必要ありません。カボチャもどうかそのままに」

「でも、それじゃあ、お城に行けないよ」


「貴方様のいらっしゃる場所が私にとっての『お城』です。カボチャは今からパンプキンパイに致しましょう。

  折良く、意地悪な継母も邪魔な義姉もおりませんことですし……いっしょにお茶でも如何です?」

 --シンデレラは極上の笑みを浮かべてそう言いました。

「それは美味しそうだけど……朱里」

「はい」

「先ずはそのドレス、着替えてくれない? 僕、怖い……」


 --こうして、シンデレラはお城に行くのを止めてしまいました。嗚呼、話が続かないっっ! 一二時の鐘の音も、ガラスの靴も出てこないっっ! おお、何たる事でしょう。作者の当てた配役は、どっか間違っていたのでしょーか!? ってか、そもヒロイン抜擢を恐ろしく踏み間違えてしまったんでしょうか~~~?


「……そう言えば、貴方様が『魔法使い』と言うことは、王子役は一体誰なんです?」

「さあ? 僕知らない」



 --そして、こちらはお城のきらびやかな舞踏会。


「ふぉっふぉっふぉ……」

「げぇ、じーさん」

「えーっ? どうして白野様が王子様じゃないのぉぉ~~~!!!

  サギよ、サギだわ~ 作者のバカ~~~!!!」

「なーにを言うとる。高貴な身分の役どころと言えば、当然わししかおらんじゃろうが」

「きゃぁぁ~ 老人の提灯ブルマーなんてイッヤ~~~!!!」

「ふぉーっふぉっふぉ……、小鳥ちゃん、わしと一曲踊らんかの?」

「俺、もぅ、ホントに帰りてぇ……」


-おしまい-





 --キャスティング--


 シンデレラ=朱里

 意地悪な継母=小鳥

 巻き込まれた義姉=ダグラス

 魔法使い=白野

 王子様=セント伯爵(友情出演)

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