第三章(4)

 放課後の出来事の後、春日さんはしばらく保健室で過ごしたら落ち着いた。黒田先生は春日さんの事情に理解があったので、僕達は簡単に事の経緯を説明するだけで許してもらえた。

 長田君と春日さんが先に帰り、少し遅れて僕と高瀬さんも帰ろうとした矢先、津島さんがそれを阻んだ。放課後のことを詳しく聞きたいとのことだ。どうやら長田君が携帯電話で呼んだらしい。春日さんに何かあれば連絡することになっていたのだろう。僕は高瀬さんと一緒に屋上に連れて行かれた。

 放課後なので相変わらず屋上には他に人がいない。僕と高瀬さんは並んで立ち、その前に津島さんがいる。津島さんは腕を組んで、僕達を見据えている。僕はそんな津島さんを見ているが、高瀬さんはずっと下を向いている。


「さて、今日のことだけど、あなた達春日さんに一体何をしたの?」


 相手が津島さんでも、一方的に悪いと決めつけられるのは不愉快だ。


「待って。まず、ああいうことになった最初の原因は、僕と高瀬さんが保健室で黒田先生と話していたのを、春日さんが盗み聞きしていたことであって、別に僕達が積極的に春日さんをどうこうしたわけじゃない。あくまで不測の事態だった」


 責任逃れをしているように聞こえるかもしれないが事実なので仕方ない。


「そう。あなたが言うのならそうなのね。分かったわ。なら、高瀬さん」


 一瞬安心したが、標的が高瀬さんに絞られてしまったことでその安心が消え去った。


「あなたはどうして春日麻美さんのことを調べていたの?」


 文章だけ見るとただの質問だが、非難にしか聞こえない。何せ津島さんはその答えを知っているはずだ。高瀬さんは依然として俯いたままで口を開かない。


「僕を治す手掛かりを探るためだって言ったでしょ」


 代わりに僕が答えた。しかし、津島さんは僕の方を見ない。


「そうだったわね。でも、今私は高瀬さんに訊いているのだから、悪いけど堤君は黙っていてくれるかしら。……というわけだから、次はあなたが答えなさい、高瀬さん」


 津島さんはあくまで高瀬さんを責めるつもりのようだ。


「やはりあの時に止めておけばよかったと反省しているわ。あなたが春日麻美さんのことを調べるだなんて、余計なことをしなければ今回の事態は防げたはず……そう思わないかしら?」

「いくら……」「はぁ? 何言ってんの? 馬鹿じゃないの?」


 僕が反論しようとしたが、高瀬さんの大声によってそれは掻き消された。高瀬さんは口を開いたものの、やはりまだ俯いている。


「じゃあ、あたしが春日麻美さんのこと調べなかったら、堤君はどうなるの? 堤君にずっとこの身体のままでいろ、って言うの?」


 僕の身体を治すこと、つまり僕から幽霊を引き離すこと、それが高瀬さんの本来の目的だ。春日麻美さんのことを調べたのはその過程に過ぎない。


「あなたこそ何を馬鹿なことを言っているのかしらね。春日麻美さんのことを調べることが、どうして堤君を治すことに繋がるの? それに、あなたが堤君を治すだなんて、初めから期待していないわ」


 そこで、ようやく高瀬さんは顔を上げた。口を小さく開いている。津島さんの指摘に驚いているのだろうが、残念ながら的を射ている。客観的に見れば、春日麻美さんと僕には何の関係はない。高瀬さんと僕だってその関係を今調べているだけであって、本当はそんなもの存在しないのかもしれない。


「堤君は言っていたわよ。高瀬さんが嘘をついていたとしても、単なる暇つぶしになるだけだと。単に実害がなさそうだから、あなたが堤君と関わることを許しただけよ。けど今日、その暇つぶしの所為で春日さんに害が及んだわ」

「ちょっと待っ……」僕は口を挟もうとした。


「ごめんなさい。今の言い方だと堤君も悪者扱いしているように聞こえるわね。心配しないで。そこまでは思っていないわ」


 遠回しに高瀬さんを挑発しているのだろう。僕がそんなくだらない心配をしていないことを、津島さんは分かっているはずだ。


「高瀬さん、あなたは私が堤君を放っているように言うけど、堤君のことは先を急がないから今は様子を見ているだけよ。勿論、春日さんのことが解決し次第、堤君のことを解決するわ。あなたが関わる意味はないの」


 いつの間にか問題がすり替わっていないか――。二人は春日さんについて話し合っていたはずだ。しかし、今は僕について言い争っている。


「君に出来るの?」

「あなたには出来ないでしょ」

「出来るよ。もうすぐ出来る」


 高瀬さんは鼻で笑いながら答えたが、津島さんも鼻で笑った。


「幽霊がどうのこうの言っている人間のことを信じろ、とでも言うのかしら?」


 高瀬さんが顔を顰める。対する津島さんはまだ冷笑している。


「あたしこの前言ったよね。あんたは自分の知ってる世界しか知ろうとしない、他の世界に全く目を向けようとしない愚かな唯物論者だって」

「馬鹿な唯心論者の妄言なんて忘れたわ」


 元は何の話だったか。もはや幽霊は存在するかどうかに関する議論になってしまった。いや、最早これは議論ですらなく、ただの罵り合いに見える。しかし二人にとって思う存分自分の主張をぶつけるには良い機会だと思う。殴り合いにならないのならば、このまま言い争わせておこう。それに、二人のありのままというものを見てみたい。


「話を戻すわ。高瀬さん、あなた今回のことで迷惑をかけた自覚はある?」

「確かに迷惑かけたことは認めるけど……」

「迷惑をかけたことを認めるのね」


 津島さんが間髪入れずに口を挟んだ。


「問題はそこよ。真実なんて今は後回しよ。あなたは迷惑をかけたの。幽霊というわけの分からないことで、春日さんを混乱させてしまったのよ」

「待って。それは聞き捨てならない」


 あまり割り込みたくはなかったが、僕はすかさず声を上げた。高瀬さんが幽霊の話を僕にしなければ今回の事態を防ぐことができた、という理屈は分かる。しかし、津島さんはそれを理由に高瀬さんを責めることはできないはずだ。なぜなら――。


「ならこの前姉さんについて春日さんと話した件で、どうして僕のことをもっと責めなかったの? 僕だって春日さんを傷つけたよ。そうしたことで、春日さんの悩みは分かったけど、春日さんを傷つけたという点では僕も同罪だ。いや、高瀬さんと違って、僕は春日さんが傷つく可能性を把握していたから、僕の方が重罪かもしれない」


 春日さんを傷つけたという結果は同じだ。原因は、高瀬さんが不測の事態であり、僕は悪意が存在していた。ならば、僕があまり責められず、高瀬さんが酷く責められるのはおかしい。津島さんはこの矛盾をどう説明してくれるのだろうか。納得のいく回答もなく高瀬さんを責め続けるというのなら、さすがに津島さんに幻滅せざるをえない。


「堤君。忘れたかしら。春日さんの悩みを探るという点では、私も春日さんを傷つける可能性はあったと話したはずよ。けど、高瀬さんの場合は違うわよね。極端な話、高瀬さんが存在しなければ、今回の事態はそもそも起こらなかったってことよ」


 汚れ役の話か――。なるほど、僕は津島さんの身代わりになったが、高瀬さんではそれが成り立たない。津島さんは春日さんに白川さんの話をしたかもしれないが、幽霊の話は絶対にしないからだ。今の意見に対して僕は反論できない。

 僕が肩を落とすと、津島さんの視線は高瀬さんに当てられた。


「分かったかしら、高瀬さん。確かに今回の一件は不測の事態だったのでしょうけど、そもそも、その不測の事態を招いたのはあなたという非常識な存在よ」


 僕の認識が甘かった。高瀬さんと接することで認識が変わってしまったのだろう。

 幽霊は非常識な存在であり、そのような漫画や小説でしかあり得ないようなファンタジーな話を現実に持ち出す行為自体がおこがましいのだ。それが津島さん――というより一般人の認識だ。幽霊というステージは、一般人の立つことができない程高いがゆえに、一般人に上がってもらうことができない。


「分かったかしら? だからあなたはもうこの件に関わらないで。もちろん、堤君のことからも手を引いて」


 津島さんが冷たく言い放った。もう何が正しいのか間違っているのかは問題ではない。そもそも、議論なんてものは初めからこの場になかった。おそらく、津島さんは単に高瀬さんのことが気に入らないのだ。


「……い……」


 高瀬さんが小声で何かを言いつつ、一歩前に出た。


「何言っているの? 文句があるならはっきりと答えなさい」

「……さい……」


 高瀬さんがさらに一歩前に出る。そろそろ止めた方がよさそうだ。


「まったく……わかっていないようならもう一度言うわ。あなたはもう……」

「だから、うるさいって言ってんでしょ!」


 そう叫ぶと同時に、高瀬さんは一気に津島さんへと駆けた。そして二人の身体は衝突して、高瀬さんが津島さんに覆い被さる形で倒れ込んだ。すぐに高瀬さんが起き上がり、そしてそのまま馬乗りになった。


「ああああああぁぁぁぁぁっ!」


 高瀬さんが右腕を振り上げた。どうやら恐れていた事態に発展してしまったようだ。しかし高瀬さんの右腕が振り下ろされる前に、僕の右手が彼女の右手首を掴んだ。


「放して、放してよ! こういう女は一回殴ってやらないと分からないんだよ」

「放さない。まだ文句があるなら口で言いなよ」


 興奮して身体を揺らし、声を荒げる高瀬さんに対して、僕は冷静に声をかけた。すると、高瀬さんの身体の動きだけは止まった。それを見て、僕は高瀬さんから手を放した。


「津島さん、あんた、あたしが妄想を抱いてるって言ったよね」


 手を下ろしつつ、高瀬さんが再び津島さんに眼を向ける。


「ええ、言ったわね」

「あんたはどうなのよ。霊がいないって思ってるのだって妄想なんじゃないの?」


 霊に憑依されているとされる僕が聞いても、滅茶苦茶だと思える一言だ。だからすぐに津島さんの皮肉が飛んでくるものと思っていた。しかし津島さんは高瀬さんを見上げるだけで、何も言い返さない。


「結局あんたは霊に対して無関心なだけだよ。あんたは霊を嫌ってるんだろうけど、そんなんじゃ嫌いって言える資格はない。ただ逃げてるだけだよ」


 津島さんが一瞬だけ大きく目を見開いて、それから口を噤んだ。もう反撃する意思のない敗北者のような面持ちだ。今の高瀬さんの発言が津島さんの弱みに触れたのだろう。ところでその発言なのだが、どこかで聞いたことがあるような気がする――。


「そうね。悪かったわ」


 津島さんが謝った。自分に非があることを示した。それと同時に僕は思い出した。ああ、なるほど――津島さんが負けを認めるわけだ。


「高瀬さん。もう立たせてあげなよ」


 ともかく勝負ありだ。僕が声をかけると、高瀬さんはゆっくりと立ちあがって津島さんの横に移った。そして津島さんもゆっくりと起き上がった。津島さんはそのまま振り返り、何も言い残さずに屋上を後にした。津島さんがいなくなった後、僕と高瀬さんはフェンスに凭れるように座った。僕は手を地面につけて、足は伸ばしている。高瀬さんは三角座りで両腕を膝に回している。並んでいるが、その距離は少し大きい。


「津島さんの反応が普通だと思うよ……」


 高瀬さんは少し笑いながら呟いた。しかし、その眼には涙が見える。


「あたしは、絶対に霊はいると思ってる。けど、そう信じてもらうことはとても難しいことも分かってる。分かってるつもりだったけど……やっぱり心のどこかで傲慢になってたのかな。霊を信じない人を見下してた……。そのことは津島さんに謝らないとね」


 確かに、高瀬さんは津島さんのことを馬鹿にしていた。自分が知らない世界を知ろうとしない愚か者と罵倒していた。高瀬さんは津島さんのような人が嫌いなのだろうが、言い過ぎであったように思う。無論、高瀬さんに対する津島さんにも同じことが言える。


「霊の存在なんて真に受けられないのが普通なのに、あたしはその常識を考えてなかった。信じない人間は馬鹿だって思ってた。……いや、今でも思ってるかもね」


 津島さんは極端な例だが、幽霊の存在なんて容易に受け入れられるものではないだろう。テレビ番組や雑誌等で事実として表現されているものだって、胡散臭いと思う人が大多数を占めているだろう。僕だってまだ半信半疑なのだ。


「でもさ、あたし許せないの。霊は絶対にいるって分かってるの。あたしには霊が見えるし、イギリスにいた時は何十回も交霊会に足を運んだし……」

「ちょっと待って」


 悲痛そうに声を上げていたところ悪いが、気になる言葉を聞いてしまった。


「イギリスにいたの?」


 この質問に、高瀬さんは涙を拭い落ち着いてから答えてくれた。


「うん。お父さんは日本人なんだけどね。イギリスで仕事してたの。それでお母さんと知り合って……お母さんも日本人なんだけどね……。それで二人は結婚して、あたしが中三になるまでずっとイギリスに住んでたの」


 所謂、帰国子女というやつか――。幽霊に対する認識が違うわけだ。ずっと日本に居住していたのだとしたら、たとえ霊感があったとしても交霊会などには参加しないだろう。日本にはそのような集会は盛んでないはずだ。


「イギリス人って、結構幽霊を信じていたりするのかな?」

「そりゃ絶対信じないっていう人もいるけど、霊を信じてる、それどころか霊が好きな人は結構いるよ。霊が出るって噂になってる家が高く売られるくらい……。この国じゃ考えられないことでしょ」


 なるほど、高瀬さんはそのカルチャーショックに悩んでいるということか――。日本人が幽霊に対して抵抗があることは重々承知していただろうが、それでもきっと信じてもらえるだろうという慢心があったのだろう。結果、僕にはどちらかというと受け入れてもらえたが、津島さんには完全に拒絶されてしまった。


「じゃあ、幽霊に関することが話しにくい日本に来て……辛くない?」

「辛い……というよりかは寂しいかな……。イギリスにいた時は当たり前のように霊のこと話してたけど、今は堤君くらいにしか気軽に話せない……それが寂しいよ……」


 高瀬さんが身をさらにきつく抱く。そんな高瀬さんの寂しさを和らげられるのなら、僕がいくらでも相手になる。けどそれで足りるのだろうか。少なくともそれで足りなかった人間を一人知っている。


「ねえ、やっぱり僕だけじゃ嫌?」


 少ない相手にしか自分を曝け出すことができなかった人がいた。


「津島さんや春日さんは見ての通り、長田君だってまだ幽霊のこと自体は信じていないと思う。今のところ、高瀬さんと普通に幽霊の話ができるのは僕だけだけど。それでは嫌?」


 姉さんだ。あの人も自分の本性をずっと隠していた。素直に振る舞うことができた相手は僕と会長くらいだろう。それでも、僕や会長でさえ知らない側面が姉さんにはあった。姉さんは結局、本当の意味で自分を見せる相手に出会えなかったのだろう。

 その思いを今は、高瀬さんが背負っている。


「うん……嫌だよ……」


 つまりそういうことだ。姉さんにとって僕とは所詮その程度の存在だったというわけだ。認識していなかったわけではない。むしろその逆だ。それが痛いほど分かっていたから、僕はそれを否定したくて、姉さんのためになりたくて、今のような捻くれた自分になったのだ。

 出会ったばかりだから当然なのだが、高瀬さんにとって僕という存在は小さいものだ。


「でも、思い知ったよ……真実が人を傷つけることを。今日は春日さんがあたし達の話を盗み聞きしてたからこうなったけど、どっちにしろあたしは春日麻美さんと白川さんのことを春日さんに話してたと思う。そうなると結果は同じだよね。結局あたしは真実で人を傷つけようとしてたの」


 ああ、それは十分に分かる。僕も春日さんに同じようなことした。僕はどうでもいいけど、高瀬さんが春日さんに嫌われていないかは少し心配だ。

 おそらく高瀬さんが春日さんにしたことは、姉さんが春日さんにしたことと同じだ。姉さんも本当のことを言って相手を傷つけたのだ。


「信じていることがその人にとっての全てになる……か……」

「えっ?」今まで俯いていた高瀬さんが顔を上げて僕の方を向いた。


「津島さんが言っていたよね。多分、そういうことだと思う。真実が人を傷つけることもあるって。だからさ、津島さんも本当は否定できないと分かっているけど、津島さんの信念がそれを許さないじゃないのかな」


 だから、高瀬さんに「ただ逃げてるだけ」と言われた時、津島さんは大人しく引き下がったのだろう。幽霊の存在を否定できずにただ忌避していたことを自覚したのだろう。つまりそれは、幽霊がいることが真実なのだとしたら、津島さんは傷ついてしまうということだ。もしかしたら津島さんは、今回のこととは別に、幽霊のことでトラブルに巻き込まれたことがあり、だからあれ程過剰に拒絶しているのかもしれない。


「さっきは春日さんのことで頭に血が昇ってあんなに怒ったんだろうけど、本当は高瀬さんのことを認めようとしているかもしれない」

「やめてよ……気持ち悪い……」

「なら、君は津島さんのことをどう思う」


 是非聞きたい。そう思うのは、高瀬さんは津島さんの全てが嫌いなわけではないことを確信しているからだ。


「賢いくせに理屈を無視するところが苦手。しかもわざとやってそうなところが性質悪い」


 論理的思考が板についている高瀬さんにとっては、それを避けて通る津島さんは天敵だろう。最初は不服そうに吐き捨てていたが、徐々に高瀬さんの表情が綻ぶ。


「けど、理屈よりももっと大切なことに目を向けていそう」


 思った通りだ。僕は微笑みながら高瀬さんに言い返す。


「ほら、高瀬さんだって津島さんのこと認めている。津島さんと同じだ」


 そう言うと、高瀬さんは不機嫌そうな顔を僕に見せた。しかし完全に怒っているわけではなく、必死に照れを隠そうとしているように見えた。


「そんなことないよ」

「そうだと思うよ。君は聡明だけど、すごく頑固だ。まあ、津島さんも同じくらい聡明で頑固者だけど。実は君と津島さんって結構気が合うんじゃない?」

「ええぇぇぇ」


 と高瀬さんは大声を上げて三角座りを解いた。そのまま、両手と両膝の四点で立つ。


「あの子と一緒にしないでよ。いくらなんでもそれは酷いよ」


 と言う割にはやはり本気で嫌がっていないように思える。むしろむくれている姿が可愛い。


「一緒にはしてない。価値観は正反対だし。でも、気が合いそう」

「わけわかんない……」


 この姿勢で、この表情で、この台詞は反則ではないか。何だ、この可愛い生き物は。


「まあまあ、それより高瀬さんはそのままでいいと思う」

「えっ」高瀬さんが小さく口を開ける。


「高瀬さんはそのまま真実に突き進んで。君はそれが出来る強い人間だから」


 高瀬さんは真実を避ける者のことは考えずに、ただ真実を追求するべきだと思う。それが、霊視が出来る高瀬さんの義務であると思う。現状を考えるに、彼女なしでは真実に辿り着けないからだ。


「だから、その真実で僕達の手を引いて」


 僕がそう懇願すると、高瀬さんは満面の笑みで答えた。


「ふふっ。任せて。お姫様」


 頼もしいことこの上ないが、最後の単語は余計だと思う。

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