第12話 新装備と鹿狩り

夜の道を野犬にたまに襲われつつ歩き洞窟へ、昨日のようにレベルアップすることもなく野犬以外の者に襲われることもなかった。


洞窟の前には見張りなのかグールが二人立っていて向こうも気付いていたようでこっちから声をかける前に声をかけられる。


「ベルさん、歓迎しますよ、どうぞ中へ」


「どうも」


洞窟の中に入って途中ですれ違ったグール数人と挨拶を交わしつつグール・ロードの居る部屋へと向かう。


天幕の前まで来たところで気配を感じ取ったのかグール・ロードの方から声をかけてきた。

「ベルか」


「はい」

答えると天幕からグール・ロードが顔を出して中に入るように勧めて来る。

この洞窟で唯一見たことのない場所だったのだが幾つか用途のわからない器具が棚に置いてある以外は他のグールの部屋とあまり変わらない


「街との交渉は上手くいったのか?」


「ええ、討伐隊の編成は中止されて代わりに住人にはこの洞窟には近寄らないように連絡が回ってるはずです」


「そうか、礼ををしなければならんな…これを持っていくと良い」

どことなく嬉しそうに言いながら棚に置いてある器具の一つを渡してくるグール・ロード


「これは?」


「アンカーショット…籠手の内側に固定して使う暗器の一種だ、ここを押し込むと火薬でワイヤーの付いた鏃が射出される、鏃はどこかに刺さると衝撃で固定しているバネが外れて返しが飛び出して刺さった場所に固定される、そしてこっちを押し込むとワイヤーを巻き取る、使い方はいろいろあるが…まあ自分で使ってみればわかるだろう」


「ありがとうございます、ところでこれは貴方が作ったんですか?」


「あぁ、生前使っていたものでね、作ったのはいいが生前のようにうまくは扱えないようで持て余していた」


「生前?」


「君はグールがどうやって生み出されるのか知らないのか」


「ええ」


「死体の処理を正しく行わないと幽鬼が死体を奪って死霊となる、そしてその死霊の状態から元の体の持ち主が自我を取り戻すとグールとなる、あまり高い確率ではないがね」


「なるほど」


「まぁ話はこの辺にしようか、アンデットの私たちには時間はいくらでもある、また話す機会もあるだろう」


「はい、それではまた」


「あぁ、もし時間があるのならここの者たちに手を貸してくれると助かる、それではな」

思いがけず新しい装備を手に入れて会話も終わりグール・ロードの部屋を辞去する。


さて、朝まではまだまだ時間があることだし言われた通り何か手伝うか…。


天幕を出たところで外へと向かうグールが数人居たので何か手伝うことはないか聞いてみるとどうやら食料を得るために狩りに行くところだったらしく一緒に行くことに。


洞窟から少し離れた場所にある森の中で狩りをするのだが狙いは主に鹿や野鳥で遠距離の攻撃手段があまりない僕の出る幕はあまりない気がする。


森の中に入ったところでパルクールを取得した影響なのか木の上に昇れそうな経路や足場になりそうな場所が感覚的にわかる。

地上に居ても邪魔になりそうなので木に登って上から状況を見ることにする。


1時間ほどかけて丁度いい標的を見つけたようで一匹の鹿を囲むようにグール達が移動してゆっくりとその包囲の輪を狭めていく。


かなり近づいたところでグールが叢から手に持ったボウガンで鹿を撃つ、音を立てずに放たれた矢は鹿の尻のあたりに刺さるが流石にそれで仕留められるわけもない、鹿が慌てて逃げようとするが周囲を囲んだグールが叢から飛び出す。

それでも鹿は足を止めることなくグール達の包囲の隙間めがけて突進する。

包囲を抜けようとした鹿の近くにいたグールがナイフを抜いて立ちふさがるが突進の勢いに吹き飛ばされる。


樹上から飛び降りて襲おうにも今居る場所からは少し距離がありすぎる上に鹿の近くまで行く足場もない、小型ナイフを投げようにもこの距離で当てる自信はない、そこでふと自分の右腕の籠手の隙間ににあるアンカーショットのことを思い出す。


ぶっつけで使えるかはわからないがこのまま何もせずに逃がしてしまうのも勿体ないので、直ぐに鹿の近くの木に右腕を伸ばしてアンカーショットのスイッチを押す。


パシュンとかなり控えめな火薬の爆発する音とともにワイヤーの付いた鏃が飛び出し右腕を伸ばした先にある木に刺さる。

木の枝から飛び降りながら巻き取りのスイッチを押せば落下しようとしていた身体が重力に逆らってワイヤーの先にある木の方へと引っ張られる。


巻き取りが終わるのと同時に木に張り付くと鏃の返しを解除して引き抜き、腰のナイフを抜きながら真下の鹿へと落下する。


落下の勢いを乗せたナイフは狙い通りに鹿の頭に刺さると一撃で鹿の体力を削りきる。

そのままナイフの柄から手を放して地面に転がって着地すると周りのグールから歓声が上がる。

上手くいったことに安堵しつつ尋ねると食料は鹿一頭で当分は持つとのことなので、仕留めた鹿を担いで洞窟へ帰ることに。


流石に落下の勢いで鹿の頭に刺したので刃こぼれぐらいは覚悟していたのだが新調したナイフはフレーバーテキスト通りかなり丈夫らしく傷一つなかった。


洞窟へ戻るころには大分朝も近づいてきていたので早々に街に戻ることにした。

そういえば今日は訓練所に行ってもソフィアさんはいないのか…昼間は何をするのか考えておかないとだな…。




途中から急いで帰って来た甲斐あってなんとか太陽が顔を見せる前に街に戻ることができた。

ロータスにメッセージを送るともう起きているようで昨日と同じ宿の一階のレストランで待ち合わせとなった。

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