第11話 パルクール

屋台で買った何かの肉の串焼きを頬張るロータスと完全に日が落ちてガス灯の光が灯り始めた街を歩く、僕の食事はロータスが屋台で串焼きを購入している間に済ませた。


目的地は街の端で初日に回ったときの記憶ではたしか廃屋の多い貧民街のような場所だったと思う。

そんな場所にエクストラスキルを教えてくれるNPCがいると言うのも何となく納得できるようなそうでもないような。


向かう途中で

「そんなとこに本当にそんなすごいNPCがいるのか?」

とロータスに聞いてみたところ

「うーん、まぁ見たら納得すると思うよ」

とのこと、まぁそう言うのなら考えても仕方がないだろう。

そもそもロータスが確認しに行ったのでいることは間違いないのだ。


考えるのをやめて適当な話しつつちょうどロータスが買い込んだ串焼きの7本目を食べ終えた頃目的地に到着した。


周りは記憶通り廃屋の並ぶ貧民街、見るからにガラの悪そうな集団や地面で死んだように眠っている老人等(当然すべてNPCだ)、夜に来るには僕のような小心者には少々心臓に悪い場所だと思う。


そんな周囲の様子を特に気にした様子もなく進むロータスに案内されたのは1つの民家、2階建ての周囲の家よりはちょっとましな程度の襤褸家で外灯どころか家の中も明かりがついている様子はない。


そんな家の扉を何の躊躇いもなく開けるロータス

その瞬間時間の流れが急に遅くなった、自動迎撃が発動した!?


奇襲か!


ドアを開けようとしているロータスの肩をつかんで無理やり後ろに下がらせ庇う様にロータスの前に立つ。

それと同時に飛んできたナイフは僕の目の前で止まる。

ドアがゆっくりと開くと中から一人の老人が顔を見せる、その腕の先には僕の喉元に突き付けられたナイフ、ナイフだけなら吸血鬼の僕なら喉を掻き切られようが即死はしないはずなのだから動けただろう。

だがその老人から発せられる異様なまでに強烈な威圧感が僕の動きを止める。

引き延ばされた時間の中で動けずにいるとやがて老人は僕の後ろにいるロータスをちらりと確認すると無言でナイフを下す。


敵じゃなかったのか…。

緊張から解き放たれてふっと息を吐いてやっといつの間にか自動迎撃の効果が切れていたことに気が付く。

僕はいったいどのくらいの間固まっていたんだろうか…。


「ベル君大丈夫?」


「あ…あぁ、大丈夫」


心配そうな顔で僕をのぞき込んでくるロータスの声でやっと体から力が抜けた。

そこで老人が入るように促してきたので家の中に入る。


家の中には家具は一切なく部屋の隅に老人のものと思われる装備が転がっているだけの殺風景な場所だった。


ある程度中に進んだところで老人は振り返ると口を開く

「驚かせようで済まなかった」


「ほんとだよ全く、後で友達を連れてくるって言ったじゃないか」

謝る老人を容赦なく攻めるロータス、たぶん謝ったのはロータスじゃなくて僕にだと思うんだどなぁ…。


「こっちだって追われている身なのだから仕方ないだろう、それにノックの一つもなしに入ってくれば追ってかと思うのは当然だ」


「まぁ小さいことは気にしてもしょうがないよ、うん」

そう言って話を逸らすロータスに老人はため息を吐くと諦めた様に話題を変える。

「それで、頼んだものは?」


「買ってきたよ、人間用ポーションと保存食、んでこっちが治療用道具一式、それに罠用の爆薬5セット、これで問題ない?」


「あぁ、大丈夫だ報酬は余った金で足りるな?」


「問題ないよ、ただのお使いだし多いくらいさ」


「それで…君がロータスの言っていたベルか話は聞いている、私はコルヴォだ」


「はい、よろしくお願いします」


ロータスが話を付けていたらしく早速パルクールの訓練が始まる。


最初に教わったのは着地の仕方でランディングというらしい、型を覚えた後実際に用意された台から地面へ飛び降りる。

傍から見たら結構地味な光景だと思う…。


その次に教わったのも着地の仕方でロールと言う物、より高所から飛び降りたときにランディングでも吸収できない衝撃を転がることで逃がすという物、これも同じように型を覚えたら実際に台に上っては降りてを繰り返す…地味だ。


着地の方法を教わったら次は昇る方法を教わる。

壁面を蹴って上へと飛び上がるウォールラン、ロータス曰く職業共通スキルに同名のスキルがあるがそれとはまた別物とのこと。


そして壁に手をかけた状態からよじ登るクライムアップ、腕で壁の上をつかんだ状態で片足で壁を蹴って昇るのだが蹴る力ではなく提げたままの方の足を振り上げる反動で体を持ち上げるらしい、正直これは吸血鬼の腕力ならこんなことをしなくてもよじ登れるのだが、横で一緒にやっているロータスの方が速いので慣れれば腕力に頼るより早いのだろう。



次は腰くらいの高さの障害物を乗り越えるヴォルト、動きのイメージとしては跳び箱を飛ぶときに近いかもしれない、違うのは足を広げるのではなく揃えたまま体の下を通して跳ぶ点だ。



これのほかにも目的の場所にぴたりと着地するプレジションや細い足場で落ちずに歩くためのバランス等を教わって最後は既定のコースを時間以内に走り抜けたら訓練は終了、終わったのは訓練を始めてからちょうど2時間ほどたったころだった。

現実の世界ではこんな短時間で覚えることは絶対にできないと思うがやっぱりそういうところはゲームだから簡略化されている。

訓練が終わると頷きながらコルヴォさんが声をかけてくる。

「ではこれで訓練は終わりだ、ベルには見込みがあるな、暇なときに来ると良い君には役に立ちそうなことを幾つか教えることができると思う」


「えー、なにそれ私のときはそんなこと言わなかったじゃん」


「ロータスは射手ガンナーだろう、私に教えられることなんてパルクールくらいだ、私は暗殺者アサシンだが復讐者アヴェンジャーのベルになら教えられることはいくつかある」

職業の差はこういうところにも出るのか…

「ふーん」

ロータスは何となく納得いかないようだが


「わかりました、時間があるときにまたお邪魔します」


「あぁ、それではな」

そう言うとコルヴォさんは家のなっかへと戻っていった。


それから数秒ほどして目の前にウィンドウがポップしてくる。




エクストラスキル【パルクール】を取得しました。


パルクール:

パッシブスキル

移動術、副次効果として身のこなしが軽くなる(アクロバットを取得している場合でも効果は上乗せされる)



「取得できた、ありがとな」


「おうよ、障害物を超えるときは毎回このことを思い出して私に感謝するんだぞ」


「そんなことしてたらそのうちどっかにぶつかりそうだな」


「それもそうだね…じゃあたまにでいいよ」


「たまにでいいのかよ…」


「あはは、じゃあやることは終わったし私は宿で寝るかな、ベル君は?」


「昨日の洞窟に行くかな、何となく気になるし」


「そっかじゃあここで別れよっか、また明日の朝ね」


「わかった、また明日」


手を振りながら街の中心へと歩いていくロータスを見送ってから僕は街の外を目指して歩き出す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る