中層商店街・夜


暗くなった街中を、ニカイドウとイリヤの二人は歩いていた。暗く、静かな通り。昼間の喧騒が嘘のようだ。

「湿っぽいねえ」

「中層は夜になると乾燥機止めるからな」

「住みやすそうなとこジャン。上層なんかよりずっとずっとさ」

イリヤは愉快そうに笑っている。

「そう思うか?」

「俺はそう思うね……」

「ヨオ兄ちゃん、スケ連れてどこ行くんだ」

ニカイドウとイリヤは喋り続け、通り過ぎようとしていた。

「無視すんな」

「ん、俺?」

行く先を阻まれ、イリヤは首を傾げた。長い髪が肩を滑る。

「残念だけどおれ、女じゃねえよ」

「俺もだ。目ェ腐ってんのか」

「アハハ、そういう言い方よくないと思うなァ……」

イリヤはおかしそうにクスクスと笑った。先にイリヤが殴られた。間一髪の回避。

「あっぶね」

「バカだろお前」

「ヒドイなァ……」

腰を落とし、イリヤは相手へ突っ込んでいった。


イリヤは襲ってきた男をニカイドウと共に無力化した。パンパンと手を払う。

「成程ね、こういうこと」

「そうだ。夜に出歩くやつらなんて湿気に慣れた下層の人間くらいのもんだ。それにしてもイリヤお前、随分と場馴れしてんじゃねえか。普段あんなことばっかやってんのか?」

「昔やってたんだよ。今は足を洗ってマトモな……マトモな……? やー、今も下賤な仕事してるよ。昔やってたのとどっちがマシかなァ……」

「なにしてんだお前……」

「内緒。そのうち教えてやるよ」


「そういやニカイドウサン、なんか夢とかある?」

「夢?」

「そそ、夢。やってみたいこと」

「上層に行って金持ちの宴会に混ざってみてえな。たまにやるだろ? 教会前で演奏。仕事場からたまに聞こえるんだ。死ぬまでに一度参加してみたいって思うぜ……おい、何笑ってやがる」

「んー? ニカイドウサンにもそういうのあったんだなあって」

「馬鹿にしてんのか」

「アハハ、してないしてない」

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