第10話

「停めて」


 蓉姐の声と共に灯りの流れは止まった。


 降りなくちゃ。


 今度は指示される前に動いてみる。


「全く、最近は何でも値上がり、値上がりなんだから」


 車夫がまた全速力で駆け出すと、蓉姐はバッグに財布をしまいながら、舌打ちした。


 ビーズで出来たバッグは辺りを彩る灯りを反射して、キラキラと無数の細かな光を発しながら柔らかにうねる。


「あんた、自分だけさっさと降りんじゃないわよ」


 蓉姐はこちらの姿を認めると、またきつい声を出した。


「人に車代払わしといて!」


 どうやら、私はまた気の利かない真似をしたらしい。


「お車代、いくら払えばよろしいですか?」


 綿入れの懐を探る。

 車代とお粥一杯の値段ではどちらが高いんだろう?


「もういい!」


 付き刺す様な声が飛ぶ。


「あんたに払えないのは分かるから」


 蓉姐は急に声を落としてそう告げると、歩き出した。


 本当に、ついていっていいのかな。


 迷いながらも、私は後に従うしかない。

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