現役社畜と異世界旅行 (改)

辰 勇樹

序章 「人生スペシャルハードモードの自分に死を」

 この日は雨が止まず、一日中降り続けていた。しまいには道路にも川の水があふれだし、近くの橋が崩れたらしく国道十七号線は渋滞した。このとき俺はバスを待っていた。こんな渋滞の中、バスなんてくるはずはない。だがそれでも待った。しばらくすると、携帯が鳴りだす。携帯の着信画面を見た瞬間、嫌気がさす。部長からだ。俺の勤務するのはソリエストというゲームをつくる会社で、そのなかではイラストを担当していた。おそらくは今日、会議が行われたのだ。だが家から百キロほど離れたところにある会社は、そう簡単に行けるものではない。

「もしもし」

 __もしもしじゃねえ。タカノリ、お前会議来てなかったな。どこで道草食ってやがる。大体今日の会議はお前のための会議なんだぞ。ゲームを遊んでくれるユーザーが、一人でもお前の絵を変えてほしいといわれれば、断るにはいかないだろ?わかったらさっさと出勤しろ。

 ゲームの絵の指摘は俺の会社ではかなりキツい。一つの指摘があれば俺の休みは減る。大量にあればあるだけ、仕事が増えるのだ。よくファンだからこその指摘などというが、その指摘が俺の仕事が増えるだけだ。しまいにはサービス残業とか社長がわけのわからないことを言うし、絵を提出しても給料上がらないし、いくら頑張ったってボーナスすら出ないし。ユーザー?そんなのいいから休みをください。

「でも部長。そんなこと言われても、八賀大橋が崩壊しているのにどうすればいいんですか?」

 __はあ…。お前はほんっとうに学習しないやつだな。泳いでこい、いいな?

「泳げって…。あの、無理ですが」

 __知るか!俺は忙しいんだ!それともなんだ?仕事は任せろってことか?それが違うのなら早く来い。そうだなァ、二十分だ。二十分で来い。

 あなたの仕事は毎日私がやらされているのですが。それにここからだとまだ五十キロはあるんですが。それをどうやって二十分で来いと。感覚狂ってる。頭おかしい。バーコードのくせに生意気な。

「だったら少しでも給料上げろよこのバーコード!」

 ああ、悪い癖がでた。言ってしまった、部長に。

 __ばばばばばば…こうど…。ツー、ツー。

 死んだか。やったぜ。冗談はともかくこれ以上怒らせたらまずい。俺は服を脱ぎ、裸で銀杏湾に飛び込んだ。周りからは裸に対しての悲鳴と笑い。そしてそれを自殺とみた人たちの視線が目に焼き付いた。


 死んだ。



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現役社畜と異世界旅行 (改) 辰 勇樹 @clow

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