忘れた男☆にザワつく異世界

円鐘 眺

第1話 忘れた男は、恋に落ちる。

ぽこり、と意識がもどる。


まぶたが重く、目を開けるのが辛い。


だるい~ 二度寝したい~


目をつむったまま、はっきりしない意識を、もてあそぶ。


全身が気だるくて、動かし辛い。


もちろん、頭もズッシリ重い。脳が、シビれてるかんジ?


しまったー。また、やらかしちゃったかな?


「うぅ」


ぐぅ。痛たた。喉も絡んで、声も出し辛い。


「◯×◁▷◯□!?、▽◯□=*◯〜!!」


え?なんだ?


……年配男性ぽい渋い声だけど、何語しゃべってんの?


「×▷◯◁!◯〜□、◇=◯×◁◁*◇?」


おぉ♪かわいい女の子の声だぁ、って、何処の言語?。


俺、どんな状況?


「ぐぅ」


むりやり、目を開けて見る。


薄目しか開けられないが、白い布?の素材が、やや斜めに張って居る。何だろう?テントの中?


「うく」目を閉じる。


ってダメだ、まぶたと言うか、顔全体の筋肉が痛い。


回復シークエンスヲ、開始しまス。


シビれた頭の中に、急に電子合成音っぽい声が、響く。


え?


ヴォン


一瞬、暗いまぶたの内側が、青く輝く。


そして、全身の痛みが、一瞬で消える。


「はぁ」


全身の力が、抜ける。


ぱちり、と、目を開ける。


視線の先の天井を中心に、目だけ動かして、周囲を見渡す。


やはり、テントの中の様だ。結構広そうだな。


「◯◁◁×◇◯▽△?」


自分の右側から、渋い男性の声がする。


声の方向に顔を向けると、えと、位が高そう?な衣装を身に付けた年配の男性と視線が合う。優しい笑顔を浮かべて、座って居る。


「あの、えと」


「◯◁◁×◇◯▽△?」


困ったな、何かを質問されて居る様子だが、何を言ってるのだろう?


言語取得シークエンスヲ、開始しまス。


また、合成音ぽい声が、脳内に響く。


「え?」


ズキズキズキズキ!!!


「ぐわっ!!」


頭の芯に、キリでコネ回される様な、強い頭痛が起こる!!


「うわっ!ぐうぅううう!!」


寝かされた寝床で、のたうちまわる。


「◯◁◁×◇◯▽△!……◯×▽△◁!!……ミリアニ!!早く『癒し水』を持て!!」


「はーい!御爺様!!」


パタパタと、テント外側から声がかかる。


あれ?俺、今、会話が聞き取れて、意味が理解出来たよね。


俺の動きは、位が高そうな男性に背をむけたまま、止まる。


気が付けば


あれ?あんなに激しい頭痛が……消えた……


どうなってるんだ?


バサッ


テント入口の布が、慌ててまくられる。


「御爺様!お待ちどうさま!!」


可愛い声の女性が、入って来るのが背後に聞こえる。


激しい頭痛が消えた俺は、先ず体勢を仰向けに起こす。


そして、少し頭を起こし、可愛い声の彼女を、初めて目にする。


ピカ!ピカ!!ガラガラガッシャ〜ン!!!


いや、実際に音はしていない。


しかし、脳内では彼女は光り輝き、雷が鳴り響く。


俺は一目で、その彼女へ、恋に落ちた。


彼女の碧眼から、目が離せない。


彼女も動きが止まり、俺との視線から、目を離さない。

彼女の碧眼は潤み始め、白い肌は上気し始める。


「うほん!……ミリアニ。そろそろ『癒し水』を、渡して貰えんかな?」

位が高そうな年配男性が、ミリアニと呼びかけた美女に、苦笑しながら声をかける。


「きゃぁ!御爺様!!ごめんなさい!!」


ガチャ!!


「あっ!」


ミリアニが持つ御盆から、水差しとコップが傾く。


フシュ


俺ははからずも、ミリアニの手の上から、水差しとコップを抑える。


つまり、寝床から一瞬で、ミリアニの目の前に立ってしまった。


「きゃ!」


ミリアニは、俺の手に自分の手を押さえられ、顔が赤いまま驚く。


あっ、と俺も驚き、暖かで柔らかな彼女の手を離し、後ろに一本下がる。


「あ!」


ガクンと、足の力がが抜ける。


どさり!


そのまま寝かされていた寝床に、倒れこむ。


「だ、大丈夫ですか!?」


「はっはっはっは!見事な『瞬駆しゅんく』だの!」

位が高そうな年配男性は、高笑いする。


「し、し(うぐ)失礼しま(むぐ)した」


しやべった事が無い言語の発音で、舌が少しもつれる。


「なんだ。御主おぬし、喋れるのか。では、名は何と申すかの?」


「あ、はい。私は……」


あれ?名前……あれ?なまえ……


「なまえ?……あれ!?」


俺の名前は……何だっけ?出てこない!


「……思い出せない……」


俺は、自分の両手を、某然ぼうぜんと見つめる。


位が高そうな年配男性と、彼の孫と言うミリアニは、心配そうに俺をのぞき込む。



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