第26話 白刃、化け物を真っ二つ

 操り人形のように不自然な格好で起き上がったが、再度跳んだ。


 リンメイの背後から一陣の風が舞い、黒い小さな影が猛スピードで駆け抜けた。


「ほいさっ」


 掛け声とともに、ふわりと跳躍したのはぬえであった。


 手にしたつえが一閃する。

 グワンッとの骸骨の頭部が杖の打撃によって大きく陥没した。ぬえは素早く杖を引き寄せ、宙で回転しながらさらに横殴りに杖をふるった。の腹部が『くの字』になり大地に激突する。


「おほほほっ、まーだまだ!」


 ぬえは落下しながら杖を両手で握り、子疫鬼を土の上に串刺しにした。


「ここは任せたぞい、オカマさんや」


 ぐいっと杖を引き抜くと、作業員たちを狙うたちに群れに向かう。

 唖然とするベクとリンメイの耳に地響きが聴こえた。


「オカマだなんて、おっしゃらないで! ワタクシは純真な乙女よ」


 ギラリと光る抜身の日本刀を振りかざしながら、マウンテンゴリラが走ってくる。


「ゲゲッ」


 ベクは拳銃を構えるのも忘れ、恐怖におののく。


 ゴリラと見まごう獰猛どうもうさをまとい、ナーティがもの凄い形相で近づいてきた。大地に転がっていたがふらりと立ち上がる。


「化け物退治にワタクシの村正むらまさを使うのはもったいないけど、日本刀の切れ味を教えて差し上げるわ」


 ナーティの目が据わった。「ふんっ」と鼻息と共に、白銀の刃が円を描いた。


 シュパッ!


 空気を切り裂く音がしたと思ったとたん、立ち上がったの上半身が真っ二つに分かれる。緑色の粘液を飛び散らかしながら、は両断され再び大地に崩れ落ちた。ビクンビクンと四肢が踊る。


 ベクとリンメイは口を開けたまま、その様子を見つめる。ナーティは刀を振りながら顔を二人に向けた。


「どこのどなたさんか知らないけど、ワタクシを本気にさせちゃったわね。覚悟しなさいな」


 ナーティのドスの効いた低い声を発しながら、村正の切っ先をベクに向けた。


 ベクは情報部将校として、これまで目を覆いたくなるような非人道的行為を、それも顔色ひとつ変えず行ってきた。いや、むしろ喜悦の表情を浮かべていたと言ってもいいであろう。


 いったい何人の人間を拷問にかけ、命を奪ってきたことか。しかし今この時は、ただの哀れなでくの坊になり果てていた。高級スーツのズボンが知らぬ間に、失禁によって濡れていることにさえ気づいていない。


「殺しゃしないわ。ワタクシは慈悲高き乙女ですから。おばあさまを援軍している間に逃げようなんて思わないことね。といってもここから脱出なんてできないけどさ」


 ナーティは鋭い一瞥いちべつをくれると、ぬえを追って駆けだした。


つづく

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