第七章一節前半
第七章 戴冠式で大臣と大決闘
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ベッドのサイズはダブルベッドくらいだった。『S&S』の寝巻らしいのを身につけた王様が、ゆっくりとこっちをむく。静流の親父さんと似ていた。もっとも、頬がこけてやつれている。隣で寝ているお妃様も同じだった。
「私たちの国のものではないようだが」
「地上からきた、ただの蛮族ですよ。これから行われる戴冠式を無茶苦茶にするのが目的でしてね」
強利が近づき、王様とお妃様に手をかざした。柚香も横に並び、同じように手をかざす。
「ふむ」
少しして強利がうなずいた。
「これは、僕の知っている毒ではないな」
「俺に盛られたものとも違いますか」
「違う。そんな即効性のあるものではない。勘で言うが、少し強いしびれ薬と言った程度だな。知っている解毒の魔法を片っ端からかけていけば、なんとかなりそうだよ。さすがに殺すのは忍びなかったか」
「でしょうね。お願いします」
殺す気なら、とっくに殺してる。そうしなかったところを見ると、大臣にも良心が残っていると考えていい。魔王の思念を封印できれば、意外にまっとうな政治を行うんじゃないかな、と俺は考えた。
「僕に合わせて解毒を頼む」
「わかりました」
強利の言葉に柚香がこたえ、ふたりして呪文を唱えはじめた。俺と華麗羅はすることがないので見物である。解毒の魔法を受けていた王様が、俺たちに目をむけた。
「戴冠式と言っていたが」
「ルーイ様の娘が王を継ぐそうですよ」
俺たちに質問してきたのは、強利たちの呪文を中断させたくなかったからだろう。秘密にする必要もないので、俺は正直にこたえた。王様が目を見開く。
「君たちは、ルーイのことを知っているのか。それから娘とは?」
「ルーイ様は『S&S』で、幸せに暮らしてたんですよ。娘もいました。静流って名前なんですけどね。あなたをこんなにした大臣は、その娘に王位を継がせようとしています。地上の人間と戦争をするには、その議案に許可をだす、あやつり人形の王様が必要だって考えだそうですよ」
「なんということだ――」
王様が身体を起こした。
「まだ寝ていてください。解毒が済んでいません」
あわてて柚香が王様を寝かしつけた。強利が詠唱をつづける。
「あの大臣らしい考えだな。まさか、そこまで地上の民を憎んでいたとは」
「かつての魔王の思念がとり憑いていたそうです」
これは華麗羅だった。寝かしつけられた王様が表情を変える。
「なんだと?」
「聞くところによると、以前の大臣は、そこまでの危険思想は持ち合わせていなかったそうですが」
「それは――そうだが。そうだったのか」
「それが判明した以上、私たちにはやらなければならないことがあります」
華麗羅が腰に差している剣に手をかけた。
「安心してください。なるべくなら殺しません。不慮の事故は覚悟してもらいますが」
「それはよろしく頼む。できることなら、我が国の民を傷つけないでもらいたい」
王様がつぶやき、天井に目をむけた。
そのまま、しばらく強利と柚香の魔法がつづいた。というか、長い。詠唱がおわったかな、と思うと、またはじまる。いろいろな解毒の魔法をかけるとはこういうことか。
「俺のときもこうだったんですか?」
小声で華麗羅に訊いてみた。華麗羅がうなずく。
「おまえのときは、丸一日かかった。複数の毒を調合してあるらしくて、兄上でも毒の種類を特定できなかったからな」
「なるほど」
『M&M』の文明、恐るべしである。――確か、イルカンジって名前だったかな。一センチにも満たないクラゲが人を殺すって話を聞いたこともあるが、俺もあぶなかったらしい。
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