第12話
「のう、コータ」
ゆんは、悠然と聞く。
「何だ?」
僕は、軽薄な返事をした。
いつも呼ばれる時と同じ様に返事をしただけだった。けれど、ゆんの様子がどうもいつもとは違っていた。真摯と言うか、摯実と言うか――実直であることだけは、その眼から感じ取ることが出来た。
「もしも、今まで地球人だと思っていた人間が、実は宇宙人じゃ、と告白して来たら、その時――その宇宙人と地球人は、今まで築いていた友好関係を今までの様に築けるんじゃろうか?」
「どうして、そんなことを聞くんだ?」
その質問の意味さえ、僕には良く分からなかった。
「コータは、あのゲームをやってないのかや?」
「買ってからずっとやっていたのは、どこのどいつだ」
「そうじゃった、そうじゃった」
いつものように、カカカと高笑い。
「では、コータがこのゲームをやらんでも楽しめるよう、教えてやらねばのう。オチから言えば、自分を宇宙人じゃと思っておった地球人と、自分を地球人じゃと思っておった宇宙人の話じゃった」
「何、ネタバレしてんだよッ!」
今度やろうと思ってたのに。
「どう思う?」
「それは、ネタバレに対してかッ! それとも、ネタバレをしてくる奴に対してかッ!」
「勿論、前者に決まっとろう」
どうやら、悪びれた様子は無いらしい。
「知ったからって、特に何かが変わるわけでも無いんじゃないか」
「ほう。なら、ぬしが宇宙人じゃと言う事実を知ってしまったらどうじゃ?」
「どうって言われてもなあ……」
あまりに突飛過ぎて反応も出来ない。
「なら、言っておくが、ぬしは正真正銘の宇宙人じゃ」
「はあ?」
間の抜けた返事が思わず零れてしまった。
「まあ、何もぬしに限らず、自身のことを地球人じゃと思っておる生物は、皆一様に宇宙人じゃ。安心せい」
また突飛な。
それに、何に対して安心をすれば良いんだ。
「昔、わっち等の祖先に当たる者が、この惑星にやって来たんじゃ。目的は、外宇宙開発、未開惑星開拓じゃったかの。軌道、大気、地質などを調査した結果、惑星開発基準を大幅に越えておったこの惑星で、ある実験が行われたのじゃ」
唐突に、話は一大スペクタル巨編の様になる。
「実験……?」
「そうじゃ。この地球上で、最も知能指数の高かった生物――類人猿に地球人で言うところの地球外生命体即ち宇宙人であるわっち等の遺伝情報を用いて、進化を促したのじゃ。その結果が、地球に現存するヒトと言う生物じゃ」
ヒト。
ホモ・サピエンス。
哺乳類で、直立二足歩行をする唯一の生物。
テレビだったか、本だったかそんな様な話をどこかで聞き覚えがあった。
地球人は、実は宇宙人だ――と言う説だ。
その説の裏付ける証拠として、地球人に宇宙人のDNA要素が見つかったことや、隕石の中にも同じDNA要素を発見出来たことから、隕石によって生命を齎されたのではないかと。
「ただ、類人猿にとって天敵となる生物がおってのう、それらを排除するのと、より効率的に進化を促進させる為に、六千五百年前くらいだったかの、隕石を地球にドーンと落っことしたんじゃ」
「隕石なんて意図的に落とせるものなのか?」
「そんなこと他愛も無いわ」
まさかの、恐竜が絶滅した原因はこいつらかよ。確かに、そんなことが可能なのだとしたら、当時の類人猿の天敵と言える恐竜を効率的に排除することが出来ただろう。学者たちにでも聞かせてやれば喜びそうな話だ。
だが、残念ながら僕は学者ではない。
それに、話の意図がまるで見えてこない。
「結局、何が言いたいんだ?」
「そう、それじゃ。その言葉を待っておったんじゃ。結局、このゲームはわっちに何を伝えたいのじゃ、何をさせたいのじゃ、何をどうしたいのじゃ。ぬしにも同じように何を伝えたいのか分からないモヤモヤをそのまま伝えてやったわ。大安売りのワゴンの中でも、売れ残っている理由が良く分かるわッ!」
なるほど、ただの腹いせだった。
「要するに、このゲームはつまらなかったってことだな」
「そうなるのう」
回りくどい上、更に面倒臭い。
「ん? と言うことは、地球で宇宙人が一緒に屋根の下で暮らしているってことなのか?」
「そう言うことになるのう」
ゆんは、カカカと高笑いをすると、釣られたかのように腹の虫まで鳴き出した。ゆんは照れ臭そうに、そっぽを向いて言う。
「わっちは、ゲンプクじゃ」
普通、成人男性の祝いの儀式のことを指すのだろうけれど、この場合は単純に腹が減ったと言いたいのだろう。わざわざ、突っ込んで指摘をするような無粋な真似はせず、敢えてそこは乗っかってやる。
「僕も減腹だから飯でも作るか」
恐らく、ワザと言っているからな。
僕の反応を見てカカカ、と高笑いをしているのが何よりの証拠だ。
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