　時久は慌てて玄関を開け、叫んだ。

「吉乃！　大丈夫か？」

　時久は気づかなかったが、玄関の目の前に、ちょこんとパジャマ姿の妻、吉乃が立っていた。そして、恭（うやうや）しく頭を下げた。

「時久様。お帰りなさいませ」

　じっくりと、吉乃の顔を見回す。

「吉乃……。起きていて大丈夫なのか？」

　と問いただすと吉乃は、

「先程までは休んでいたのですが、時久様が帰ってきてくれる、と聞いて、嬉しくて起きてしまいました」

　ぱっと吉乃は笑みを浮かべた。そんな吉乃の頭をワシャワシャと時久は触ると、

「体調が悪いのならば、おとなしく寝ていたほうがいい。吉乃、ほら」

　軽々と、時久は吉乃を俗に言う、”お姫様抱っこ”をした。そんな時久の顔を、吉乃はまともに見られない。

「と、時久様！　私、自分で歩けますから！　離してください！」

「やだ。吉乃のその表情が見たい」

　いたずらっぽい笑みを珍しく時久は浮かべると、妻吉乃の部屋へと歩いていった。

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい