春の襲撃編 5

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 面倒臭い戦闘を終えて、急いで講堂に入ると、開式まで残り5分だった。戦闘は1、2分程で終わったので、途中の移動が長かったことになる。まぁこれでも急いだのだが。

 緋里は今舞台袖で緊張しているだろう。だが、1度舞台に立てばそんな緊張感を表に出すことは無い。


 ――そして入学式が始まる。


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 意外と長かった入学式を終えて、帰ろうとした時。どうやら緋里は新入生代表として、生徒会役員に挨拶があるらしく。

 蒼翔は仕方無く緋里についていった。別に蒼翔には関係ないのでついていく理由はないのだが、緋里が「蒼翔も一緒に」としつこいもんだから、仕方無くついていくことに決めたのだ。多分、緋里なりの慰め(?)なのだろう。どうやら、一緒に挨拶をすることで《優等生》という意識を持たせるとか。


 という理由で生徒会室の目の前についた。

 生徒会室には基本的に生徒会しか入れないので、今回は特別、というより向こうが招待したのだから入っても大丈夫、なはずだ。


 トントンとノックをすると中から、この《優劣剣魔士育成機関学校『第1生』(通称剣魔士学校『第1生』)》会長、剣採愛歩の声が聞こえてきた。《優等生剣魔士育成機関学校》と《劣等生剣魔士育成機関学校》が合体した場合、勿論だが《優等生》の方の生徒会がそのまま生徒会役員になる。


 中に入ると、待ち構えていたのは会長の剣採愛歩と3年男子副会長の杁刀礼樹と2年女子書記の雫瀬蘭夢しずせらむだけで、3年女子副会長と3年男子書記と3年女子書記と2年副会長と2年男子書記は自分の事をしている。


 この学校の生徒会の編成は、会長、副会長、書記の3つだ。

 会長は学年関係なしに、この学校で1番票を集めた者が慣れる。だから、別に1年生がなろうとも構わないのだ。

 副会長は、3年が男女1人ずつで2年は1人。前期は1年生の副会長はない。

 書記は、3年と2年とともに男女1人ずつ。2年でも2人いるのは、副会長よりもやることが多いからである。

 これはあくまで前期(10月中旬)までであり、後期は3年生が抜けて1年生が入ってくる。これは昔から変わらないことだ。


 扉(自動ドア)が開くと満面の笑みで目の前に立っていたのだから、恐怖でしかない。ドアが開いたら幽霊登場、的な。

 あまりの恐怖に半歩後退してしまったが、気づかれてない――といい。


「いらっしゃいさん」


 それは蒼翔に向けられたものではなく緋里に向けられたもの。そもそも愛歩は蒼翔を見てすらいない。蒼翔は、自分が劣等生だから、という理由を勝手づけて気にしなかった。


 ――所詮は自分の下。


 蒼翔だって全国順位の自分の1個したであり、緋里を抜いた2位のことを知らないはずはない。

 緋里は全国で3位だ。緋里も蒼翔と同じく強いのだが……欠点が多くそこを突かれると一瞬で死に至る可能性が高い。


「どうぞ中へ」

「すみません弟も一緒なのですがよろしいですか?」

「えぇ勿論」


 即答だった。考えることもなく、いや元からわかっていたように答えた。そして、その顔には「用件もあった」と書かれているような気がした。

 蒼翔とは付き添いの身なので、緋里の斜め後ろをついていく。

 そこまで歩きはしなかったが、愛歩はこちらを向いて改めて。


「ようこそ《優劣剣魔士育成機関学校『第1生』》へ。ご入学おめでとう」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」


 ここで無視するのも失礼なので、緋里に続いてお礼を言う。蒼翔的にはお礼を言いたくはないのだが。


「自己紹介等はハブらせてもらうわ」


 蒼翔と緋里は一応全員知っているのでしてもらう必要はなかった為、丁度良かったと思う。


「早速本題なのだけれど」


 いやこっちが挨拶しに来ただけ、というツッコミをしようか迷い、蒼翔が喋るのは向こうにとっても良くないことだと思い、心の中だけで言うことにした。

 いや、もしかしたら蒼翔は緋里に騙されたのかもしれない。挨拶に来たのではなく、ただ単に生徒会から招待されたのだと。


「――、刈星緋里さん――明日私達生徒会役員全員と、模擬戦をしてくれないかしら?」


 それはあまりにも突然のことであり、自分の名前も入っていることにより驚きが隠せなかった。まぁ別に向こうが蒼翔のことを知っていても不思議ではないが。

 どうやらそれは冗談ではないようだ。目を見ればわかる。


「えっと……」

「突然で申し訳ないわね」

「できれば……その理由をお聞きしたいのですが……」

に、何故自分も入っているのかも」


 ついでに、と言ったのはそのままの意味であり『ついで』でいいのだ。ここでの蒼翔の立場は劣等生であり、向こうは優等生だ。劣等生のことを話すなんてそんな時間の無駄なことはしない、と思う。


「……まず、何故刈星蒼翔君が全国1位にも関わらず《劣等生》なのか。私達の考えでは『ズル――不正』をしたのではないかと考えているの」


 もうこの時点で大体予想はつく。

 つまり、明日の模擬戦で『不正』をしていたかしていないか見極めるのだろう。なんと無駄なことを。


「そして2つ目。刈星蒼翔という男が全国1位だと、私達のメンツが丸潰れなのよ」

「つまり、自分を倒して1位から、トップ10から抜けて貰おうと?」

「えぇそうよ」

「自分には、生徒会役員全員で自分の相手をする方が、メンツが丸潰れではないかと」

「誰が公式にやると言ったのかしら?」

(おいおい……)

「蒼翔君が1位だと困るのよ。国としてもね」


 いやそれは逆である。

 国としては刈星蒼翔という男が1位ではないと困るのだ。なぜなら世界最強だから。


 世界最強の男が全国で、たかが高校生のランキングで1位以外の順位をとったら、逆に国としての――日本としてのメンツが潰れる。だから、蒼翔は1位というものを守らなければならない。


 蒼翔が世界最強だと知っているのは日本の1部の人間だけだ。《与えられし名》達の当主と、国の1部の人間、そして《剣魔士特別自衛隊》だけである。無論、他人に話すことは許されていない。例え、当主の娘だろうとも。

 ただ、世界最強の男がいる、ということは国民、いや世界中の誰もが知っていることだ。無論名前も。

 だが、その名前は勿論のことだが偽名だ。ニックネームと言ってもいいだろう。

 ――刀塚玄翔とつかけんと――

 これが、世界最強の男の名前だ。

 《剣魔士特別自衛隊》での呼び方は、両方だ。だが、戦闘の際は情報漏洩してはいけないので刀塚玄翔という名前だ。その他は自由。


「……まぁついでなのは緋里さんの方かもね」


 悪霊退散。


「それで……ルール等は明日で?」

「いえ今日説明するわ」

「俺から説明しよう」


 と愛歩の後ろから出てきたサッカー少年。

 説明は別に明日でもいいのだが。


「ルールは簡単だ。1対1で先に気絶、もしくは戦闘不能状態に陥った方が負け。簡単だろう?」

(1対8じゃなくてよかった)

「勝ち抜き制で、俺ら生徒会役員8人全員に勝ったらお前の勝ち。1人にでも負けたら俺達の勝ち」


 そこまでして勝ちたいものなのだろうか。


「それでいいか?」

「自分は構いません」

「わ、私は?」

「刈星緋里にも勿論参戦してもらう。順番はそちらで決めればいい」

「わかりました」


 これは後で家で考えればいい。


「用件はそれだけでしょうか?」

「えぇ。本当ならば他にもあるのだけれど、それは明日判断したら話すわ」

「わかりました。用件がそれだけならば自分達はこれで失礼します」


 途中で喋り出した理由は、生徒会がここに緋里を呼んだのは蒼翔も一緒に呼ぶため、だと思ったからだ。直接劣等生を呼ぶのは、優等生としてもあまりいい気持ちはしない。多分、緋里が蒼翔を連れてくるのを予測していたのだろう。

 蒼翔達はお辞儀をして生徒会室を後にした。


「どう思う杁刀君?」

「……さぁな。見た感じとそのオーラからは『不正』をするようには思えないが」

「まぁ所詮は『感じ』ですから」


 生徒会役員全員はまだ蒼翔と緋里のことを信じてはいなかった。

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