第45話 悪趣味

部屋に入ると確かに荷物は運ばれていた。


紗季が部屋を見て頂戴というので、又吉は一つ

ずつ部屋を見て行った。

見されられたと言った方がいいのかもしれない。


4LDKの豪華な部屋の一つは何も置かれてい

なく空き室のままだ。


今まで住んでいた沙希達の部屋は、陽子と紗季

が住みやすいよう2LDKにリフォームされて

いたのでこの部屋は狭くは感じたがそれでも独

身女性が一人で住むには広すぎるマンションだ。


最後に陽子が病室として使っていた部屋に案内

された。

部屋はそのままだった。


医療器具は無くなっていたが、陽子が寝ていた

ベッドはそのままだ。


「悪趣味でしょ」


そのままにしていることを言っているのだろう。


「そんなことないよ」


又吉はベランダの戸を開けると外に出た。

冷たい風が頬を撫ぜた。

気が付けば紗季は又吉の隣に立っていた。


季節外れの雪はいつの間にか道路を白く塗り替

えている。


「ここから毎日私達を見ていたのよ、姉貴は」


「ああ」


「どう思ってたんだろう、姉貴は」


「してやったと、思ってたんじゃないかな」


又吉は思ったままの気持ちを伝えた。


紗季は笑いながら又吉に向き直ると


「シンリもそう思うんだ」


紗季の長い髪が風になびいて又吉の頬を撫でた。


「悪趣味よね、考えてみたら」


思い出したように


「葉月さんに聞いたら、相当苦しかったそうよ、

 倒れてからの姉貴は」


「倒れたんですか」


「倒れることを予想してあらかじめあのマンショ

 ンを購入していたそうよ」


「じゃあ最初から準備されていたんだ」


「私には内緒でね」


ボソリ言った紗季の言葉は、しかし明るい。

この三ヶ月で踏ん切りがついたようだ。


「陽子さんは苦しむ姿を紗季ちゃんに見せたく

 なかったんだと思うよ」


「見られたくなかったのよ」


相変わらず紗季には笑顔が浮かんでいる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る