第16話 シンリさんビビってるでしょ

「大丈夫かなこれ、揺れ方半端ないですよ」


紗季の手を握り少しづつ吊り橋を進んで行く

又吉は、唾を飲み込みながら、何度も周囲を

見渡している。

 最初怖がっていた紗季は意外に落ち着いて

いる。

又吉の手を握りしめながら、それでも背筋を

伸ばしゆっくりついて行く。


「注意書きには特に渡る事禁止なんて書いて

 なかったから大丈夫よ」


紗季の言葉は心なしか弾んでいるようにも感

じられる。


二人の重みで吊り橋は、進めば進むほど揺れ

が大きくなっていく。


「紗季さん、あまり揺らさないでくださいよ」


紗季が足元の確認の為か、足先に力を込める度

吊り橋は揺れる。

まるで又吉が怖がるのを面白がって、わざとや

っているように。


「あら、シンリさん怖がってない」


ムッとする又吉に


「私ね、小さいころから恐怖系の乗り物好きだ

 ったんですって。最近は乗らなかったけど、

 思い出しちゃったわ、私好きみたい、こうゆ

 うスリル感」


言うと、今度は明らかにわざとだとわかるよう

に、吊り橋を揺すった。


「だ、ダメですって、紗季さん、揺らしちゃ危

 ないでしょうに」


又吉は及び腰になって、紗季に抱き付いた。


「大丈夫ですか、紗季さん、この揺れは大きい

 ですよ、大丈夫ですか」


又吉に抱き付かれた形になった紗季は、含み笑い

を浮かべながら、又吉と前後を入れ替わった。

そのまま優しく又吉の両腕を剥すと


「口と態度が全然違うわよ。私が先に行くから

 付いてきて」


思わず抱き付いてしまった照れで直立不動にな

った又吉は「はい」と答えると、そのまま紗季

の後ろに着いた。


完全に主導権が入れ替わってしまった。


「さ、紗季さん怖くないんですか」


紗季に引きずられる形になった又吉は、本気で怖

がっている。

 揺れがますますひどくなってきたのだ。


「ふふ、シンリさんとうとう白状したわね。やっ

 ぱり怖いんだ」


「当たり前でしょうに、こんなに揺れてて平然と

 している紗季ちゃんの方がおかしいですよ」


「姉さんもシンリさんと同じようにビビりだった

 わよ」


紗季は立ち止まると、握っていた又吉の手を放した。

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