第46話 流星の夜

 和貴の目の前で、ティルがようやく舞を終えた。

 全体を通して体力の消耗を抑えるような静かめの舞だったが、給水の小休止を含めて五時間を超えていた。さすがに疲労の色が見えるが、彼女の目に曇りはなかった。

「確認しました。ザッフェルバル領国内に敵の気配はもう、ありません」

 最後の舞は、かげつの担当区域に敵が残っているかの調査だった。ティルが精神を研ぎ澄まして本気で敵を探れば、半径五十キロ圏内程度ならば魔力の探知は可能だという。

 その言葉を信じ、和貴もまたヘッドセットで通信を飛ばす。

統合作戦本部JHQ。こちら外交部クイーン00

《こちらJHQ。クイーン00、どうぞ》

「――総督代行による索敵完了。ザッフェルバル管区、敵反応なしとのことです」

《JHQ了解。それでは、閣下にジャミングと索敵を終了して構わない旨をお伝えください。作戦終了の指示は別途送りますので、それまでは念のため周辺の警戒を続けてください。お疲れ様でした》

「了解。――以上、クイーン00」

 報告を終え、和貴はティルのもとへ歩く。日差しはほぼ途切れ、風は頰に刺さるように冷たい。ゆりかご艦内ではまず味わえなかった寒さだ。コートや手袋の暖かさが今はありがたい。

「ティル様、お疲れ様でした。これで今回の戦いは終了のようです」

「はい。……わかり、ました」

 ティルは小さく法儀剣を振り、形式を丁寧になぞるように鞘に収める。

 表情はどこか険しいまま。

「お疲れですか、ティル様」

「いえ、このくらいなんともありません」

 突き放すような硬い声。ティル自身でも違和感に気づいたのか、少しだけ間を開けて、

「……ごめんなさい。ちょっと、疲れてるみたいですね」

 小さく、申し訳なさそうな照れ笑いを見せる。

「早く休みましょう。ここは冷えますし、城塞の中で火に当たらせていただきましょうか」

「う……確かに、踊り終わったら、風が冷たい気が……その、汗がちょっと冷え……ぐしゅんっ」

 ちょっと派手なくしゃみ。可愛らしいけれどそうも言っていられない。

 総督代行の装束も確かに厚着だろうが、いかんせん生地が伝統工芸品の域を出ない。I.D.E.A.の断熱・保温素材ほどしっかり風を遮断はできまい。

「僕のコートをお貸ししますから。早くこちらへ」

 とりあえず自分が着ていたコートを脱いでティルの肩からかぶせてやる。丈の長いコートは、自分よりも小さな身体をすっぽりと収めるには十分だった。

 自分の体温も多少残っているからそれなりにマシだろう。

「あっわっ……。わー……」

「差し出がましいようですみません。でも、これで風は少しでも防げるかなと」

「いえ。そのっ…………あったかい、です……」

「そうですか、よかった」

 その分和貴は超寒かった。普通の制服はそこまで防寒性能を考慮されていないのでよく風が通る。早く建物か輸送機の中に入ってしまいたい。

 などと笑顔のまま寒さに震えていると、側に控えていたレファが歩み寄ってきた。

「カズキ様。……よろしかったら、こちらを」 

「えっ。ああ、すみませんレファさん」

 差し出されたのは上等そうな毛皮。肩からかけるだけで思ったより風も防いでくれてこれはこれでなかなか温かい。

 それにしてもすごい豪華な毛皮だなーとのんきな感想を抱いてから不意に気づく。これレファさんがティル様にかけてあげようと持ってきた物では、と。

「すみません。レファさん。お気遣い感謝します」

「いえいえ。……滅相もありません」

 笑顔の奥の目が笑っていなかったのは、とりあえず一旦見なかったことにする。

 なによりもまず今優先すべきなのは、

「行きましょうか、ティル様」

「……はい!」

 すっかりお疲れの、総督代行を労って差し上げることだから。



 おおとり統合作戦本部。

 I.D.E.A.降下軍の各偵察隊が隅々まで調べ上げ、大神将が何度も気配を探り、征伐軍の法官たちがトビウオに乗せられ飛び回り、ザッフェルバル総督代行の力も借りて、ついに結論は出た。

「もはや戦場に、敵兵は残っていない。……全て撃滅したと見ていいだろう」

 慎重に慎重を重ね、それでも確かだと大神将が判断し、

「征伐軍の全将兵に告げる」

 大神将が、おおとり統合作戦本部のマイクから、征伐軍の各指揮官が身につけた通信機へ、

《作戦中の降下軍、全部隊へ達する》

 I.D.E.A.第一降下隊、最高責任者たる三條支局長が、あけぼしの艦橋から、降下軍の全ての部隊へ。

 ついに、それは宣言された。

《現時刻をもって、“光の盾”作戦を終了する! 全部隊は撤収にかかれ》



「お……わったー!」

 作戦終了。その知らせはかげつの戦術管制室にもはっきりと届いた。

 八智は喜びのあまり思い切り身体を伸ばす。ずっと座りっぱなしで身体がすっかり固くなってしまっていた。あけぼし戻ったらマッサージ受けよう。すぐ受けよう。そう固く決意する。

「やったね八智ちゃん。無事におわってよかった……」

「っしゃろー! 勝ったぞおぁあああー!!」

「毎度胃に悪い仕事だまったく……。竹橋、生きてるな?」

《……問題ない。部隊の機もおおむね無事だ》

 第二歩兵中隊の皆も、思い思いに作戦の終了を喜び合う。

「お疲れ様でした。皆さん。これもこれまで貧乏くじを引き続けた甲斐があったというものでしょう」

 中隊長の一言に皆が一様にげんなりした顔になる。さすが腹黒メガネは人の喜びに水をさすのが上手い。

「撤収も速やかに済ませ、ベテランの面目躍如と行きましょう。よくやってくれました」

 はい、とか了解、とか気のない返事をしながら、しかし八智たちは手際よく撤収に取りかかる。

 ……なにせ、今回は吹っ飛ばされなかったからね!

 八智の管制卓モニターでは、自身の全小隊機のステータスが正常の緑を示していた。何よりもそのことに八智は改めて小さな達成感を覚えていた。



「浜崎大尉。お疲れ様でした。さすがは修羅場をくぐってきた二中隊。お見それしました」

 部下達の撤収作業中。浜崎が呼びかけに振り向けば、第三歩兵中隊を率いる山下大尉が、そう話しかけてきた。

 一つ下でやや固いところはあるが優秀な男だ。演習では二中隊と三中隊はほぼ五分五分。ライバルといってもいい関係だ。

「山下大尉。そちらこそ、三中隊も初の実戦でこれほどの完成度とは、恐れ入りました」

 浜崎もお世辞のようでそうでもない素直な賞賛を返す。

 これまで三中隊は、街道警備の際にローテーションで盗賊狩りに出ただけで、対竜人戦は未経験だった。

「それも二中隊の戦闘記録があってこそです。ルタン遭遇戦を元にしたシミュレーションは、我々も何度もやらせていただきました。そのおかげです」

「ええ。私たちも、あのときの雪辱を返せて満足しました。ですよね、浜崎大尉」

 横から割って入ってきたのは、第四歩兵中隊の中隊長、玉川大尉だ。

 浜崎とは同期で、これまた因縁がないわけでもない相手だ。

「おや玉川大尉。ええ、まあ。あのときは酷いものでした。全軍を挙げて豆鉄砲をばらまくばかりでしたから」

「まったくですね。あの時は役に立たなかったり、吹っ飛ばされたり、災難でした」

 ……吹っ飛ばされたのが第二中隊だけというのをわかっていてわざわざ言うのだから、この女は全く。

 その程度では浜崎の愛想笑いは小ゆるぎもしないのだが。 

「お二人の苦労、お察しします。実際、今回は銃撃が有効だったとはいえ、まだまだ人間を凌駕する能力を持つ敵だと言うことには変わりませんでした。我々も、もっと対応能力を磨いていかなければと」

 山下大尉の殊勝な感想に、まったくその通りだと、とりあえず頷いておく。問題は、対応能力を伸ばせるのかを考えるのが自分たちだと言う点なのだが。まあ、勝ったばかりの場でそこを蒸し返すのも野暮だろう――。

「そこをどうするのかを考えるのが我々中隊長の仕事なのですから。そんな他人事のような、無責任な発言は困りますよ、山下大尉」

 ……本当にこの女は……。

 浜崎は頭痛を覚えながら、山下大尉の頬が引きつるのを見た。

 それから、どうとりなしたものか、と笑顔を浮かべながら考え始めるのだった。



「あー終わった終わった。つまんねー仕事だったな」

 機甲小隊で副官を務める千鳥は、横で小隊長の市川大尉がぼやくのを聞いた。

「ええまあ、隊長はぶっちゃけほぼ何もしてないですしね」

 千鳥はため息をつきながら、投げやりに同意する。

 実際、今回の機甲小隊は固定砲台役だったので、市川の言葉はほぼ正しい。発砲のタイミングを誤らなければいいだけの仕事だった。小隊長や副官どころか、各オペレーターの判断でできる仕事である。

 想定外の緊急事態に備えるために居た小隊長だが、最後の方なんかはあくびをかみ殺しながら半開きの虚ろな目であさっての方を向いていた。

「最初にゴーサイン出したら後は有能な部下が全部やっちまってすることねーんだよ。あー、くそ、戦車乗りたかったな……」

 今回の車両が全て無人機だったことが相当お気に召さなかったらしい。いい歳こいたおっさんがおもちゃを取り上げられたガキのようにすねている。

 そんなんだから操縦も射撃も天才のくせに万年大尉なんですよアホめ、とは千鳥もさすがに口には出さず、

「まあ、また今度チャンスがあるんじゃないですか。撤収の指揮を執ってください。ほら」

「へいへい。ほれお前らー。かげつが拾いに来るから多脚自走ゴキブリ砲んとこまで撤収ー」

「「「「了解ー」」」」

「雑にもほどがないですか……」

 オペレーターたちも仮にも少尉以上の士官だ。予定通りの撤収であれば指示など受けずとも難なくこなすことができる。

 そうして急造ガトリング砲を乗せた無人戦車五両は、工兵隊が啓開した帰路を進み、回収ポイントへ急ぐのだった。



 都築大隊長は地上部隊の回収について航空団との調整を終え、管制室内を一望する。

 中でも偵察中隊は偵察機の回収作業に忙しいようだ。大量にばらまく分、流れ弾で損傷、喪失する数はすさまじい。かといって放置すれば破片や部品、損傷した本体そのものが山菜採りや狩猟に来た農民などに回収される恐れがある。彼らが市場に出したりすれば、どこで誰に行き着くものやらわかったものではない。

 全てを完全に回収することは不可能でも、直前までの信号を頼りに可能な限りの残骸の回収には努めなければならない。

 工兵隊も作業用機人ヒューマノイドや多脚無人機を使って偵察中隊の回収作業に協力しつつ、並行して大型の砲弾・銃弾の回収作業を行っている。同時に、配置時と同じく大型車両の撤収路を確保するべく、機人工兵や多脚無人機が走り回っているようだ。

 都築大隊長はそんな彼らの労を心中でねぎらいながら、自身もようやく安堵を覚える。だが同時に、のことも考えはじめていた。

 ……まったく。よくも無事に乗り切れたものだ。

 兵たちを鼓舞する側の都築大隊長は、軽々しく弱音を吐くわけには行かない。だが正直な気持ちとして、同じ真似を二度もやれと言われてできる自信もまたなかった。

 今回も弾薬や偵察機はギリギリまで投入したのだ。特に突貫で製造した対魔法砲弾類の在庫はほぼ空に近い。初手の反応弾がなければ、ここまで優勢に戦えていたかどうか。

 本音を言えば、次はあと半年から一年は間を開けて欲しいところなのだが。

 ……さて“流れ星”とやらは、効くのかな。

 自分たち第一大隊が奇襲の有利を捨ててまで行った、戦闘前の停戦交渉。そこで外交部がなにか手を打ったらしいのだが。

 うさんくさい言葉。だが都築大隊長は、その魔法が本当に効果を現すことを――せめて、時間稼ぎにでもなればいいと――祈らずにはいられなかった。


 惑星レアルフ上空。

 薄い大気の層をかすめる低軌道上。

 惑星の重力に吸い込まれないすれすれを、航宙艦が三隻、周回していた。

 ゆりかご護衛艦隊から、軌道爆撃任務部隊として抽出されたひのかぜ級駆逐艦。二番艦ほむらかぜを先頭に、三番艦ほしかぜ、六番艦あさかぜが続く。

 小規模な編成だが、遂行するべき任務には十分。司令官の尾道少将はそう判断していた。

「投下ポイント到達まで、百八十秒!」

 旗艦ほむらかぜ航海艦橋で観測員の声が上がる。

 三隻は、惑星の青い大気の縁をなぞるように駆け抜けて行く。ほむらかぜの航海艦橋のモニター群からも、惑星の海と大地がどんどん背後へ流れていくのが見えていた。

「三好艦長。このまま行けるな?」

「行きます。周辺のデブリは全て接触軌道にはありませんから」

 尾道少将の問いに、艦長の三好大佐は硬い声で正面を向いたまま返す。無理もない。試験は三度のうち二度成功させたが、一度はデブリを見落とし、接触の危険があったため中止している。自信を持つにはいささか経験不足だ。

「結構。……やれるさ。皆を信じよう」

「はい」

 尾道少将の座乗するほむらかぜをはじめ、ほしかぜ、あさかぜの三隻はそれぞれ一本ずつ、腹に巨大な“柱”を抱えていた。

 それは、厳重に耐熱加工を施された、長大な金属の塊。

 だが、尾に申し訳程度の姿勢制御翼と、終端加速用ロケットブースターを持つことで、それは確かにその本来の意図を明確に示していた。

 衛星誘導式対地質量弾。

 限界まで圧縮し、密度を高めたタングステン・チタン合金弾頭を持つ、重さと速度による単純にして強力な一撃を加える、まさに“鉄槌”だ。

 簡単な姿勢制御は尾翼とスラスターがやってくれる。

 目標までの誘導は、位置情報衛星と“かきつばた”がやってくれる。

 彼ら三隻が為すべき任務は、実にシンプル。

「投下ポイントまで、六十秒!」

「デブリ五八〇〇、予測通り最接近終了! 本艦隊から離れます……!」

 あるべき場所まで行き、あるべき時刻、あるべき速度で、質量弾を惑星へ放り投げる。ただ、それだけ。

 それだけのために、彼らは綿密な航海計画を立て、接触の危険が予測されるデブリを掃宙隊が排除し、今もミリ秒単位で観測と軌道予測を行っている。

「あと、三十秒!」

「デブリ三八八七、距離一五〇〇まで接近!」

「これもかすめるだけのはずだ! 対空監視怠るな。CILSシルス自動追尾。指示があるまで撃つなよ……!」

 それでも、排除しきれなかったデブリは飛んでいる。事前の観測ではいずれも激突コースには乗らないはずだが、艦の機関トラブルなどで自分の速度やコースが変われば激突の可能性はある。

 艦長は監視の継続と近接防御レーザーシステムCILSの展開を指示しながら、いつでも緊急排除が可能な態勢を維持させる。

「デブリ二一五七、依然交差軌道です。速度五百毎秒、距離七万」

「まもなく投下ポイントです! あと五、四、三……」

 デブリの群れをかいくぐり、やがて三隻は目的地に到達する。時刻はほとんど計画通り。

「一……投下!」

「投下!」「切り離し成功です!」「シグナルは!」「切り離し――シグナル受信! 一号質量弾の通信機は正常に作動!」

 成功した。その報告に三好艦長の表情がわずかに緩む。だが、任務部隊司令の尾道少将は違った。

「後続は!?」

 尾道少将が背後を振り返る。艦の背後を映すモニターに映る二隻に目をこらし、

「ほしかぜ、あさかぜ――ともに切り離しに成功した模様!」

 後続の二艦ともが、巨大な鋼鉄の柱を地面に向けて手放したのを見た。

 しかし、それだけでは不足だ。最後の最後、確実にに落とすためには。

「かきつばたの降下作戦情報支援隊より入電! 『全質量弾の、位置情報衛星との通信を確認。以後の監視と終端誘導は当基地に任されたし。貴隊の奮闘に感謝する』です!」

「……やった、か」

 尾道少将は、それでようやく胸のつかえを下ろすことができた。

 を、彼らはやり遂げたのだ。

「『了解。貴隊の支援に感謝する』と返信を。――任務終了。ゆりかごへ帰投する! ほしかぜ、あさかぜにも打電!」

 尾道少将の号令に、宜候ようそろの声が返る。

「デブリ二一五七、距離五万。予測通り現在の軌道では百秒後に交差コースです」

 観測員が引き続きデブリの危険を告げる。

 任務を終えた今、激突の危険がある現在の軌道を維持する意味はない。安全な航路を取るべく、三好艦長は直ちに指示を飛ばした。

「面舵三十度、上げ舵二十度。のち最大戦速。惑星周回軌道を離脱し針路を“ゆりかご”への帰投コースへ!」

宜候ようそろ! 面舵三十度、上げ舵二十度。最大戦速!」

 航海長の復唱の後、ほむらかぜは僅かに艦首のスラスターをふかして持ち上げる。一拍遅れ、艦尾のプラズマエンジンから光を吐き出し、一気に加速。後ろの二隻もそれに続き、三隻はゆっくりと重力の淵から離れていった。



 ファドル・リフオン城塞へ帰還したガイタス大神将は、捕虜の引き受け、収容作業に忙殺されていた。

 そもそも、征伐軍が過去これほどの数の捕虜を出したことなど、前代未聞であった。

 イデアの助言である程度の設備は揃えてあったが、結果として収容所の他に城塞の居住区の一部も臨時の捕虜収容施設に改装する羽目になった。 

 元々いた法官たちを一時的におおとりに移送する手続きをとり、空を飛ぶ船で送り出して、ようやく一息ついたのが、作戦終了の翌日の夕暮れだった。

 だから、をガイタス大神将が見たのは、ほんの偶然だった。

 夕食を終え、疲れ果てた頭を冷やそうとバルコニーへ出て、何気なく星空を見上げたとき、

 空が光った。

 大神将には、少なくともはじめはそう見えた。

流星マウニーレ……か?」

 次いで、自身が知っている自然現象の名をつぶやいてみる。

 だが、違う。

 流星は、これほど長く、大きくは光らないはずのもの。儚く一瞬で消えてしまう物のはず。

 似て非なる光の帯は、やがてベファン山脈の向こうへと落ちゆくように消えていった。

「…………なんだったのだ、あれは」

 大神将は一瞬の出来事に、何かの夢か幻でも見たのかと思い、考えていても仕方がないと自室へ歩き出し、

 遠く、小さな雷のような音を聞いた。

 やはりその音の正体も、大神将には想像も及ばなかった。



『あれは!』

 竜人、ダント・ゾール・ジンダはその光の正体に気付いて思わず「ギュイイイ!」と警戒の鳴き声を上げた。

 人間エサどもの将軍と、オベルム分団長の交わした念話記録を運ぶ任を受け、やっとの思いで辺境駐屯地まで帰り着いた、翌日の夜。

 ダントの目前で、星空の中ひときわ明るく輝く光が三つ、尾を引きながら流れていた。

 ――明日、貴君らの街に星が降り注ぐでしょう。

『あれが……』

 あれがもしも、奴らの予言通りの物なら。

 もしも、本隊を消し飛ばした光と同じ物ならば。

『やめろ……やめてくれ……』

 彼の祈りと願いも空しく、ただ真っ直ぐと彼の故郷へ向かって光は落ちていく。

 すう、と光が消えてまもなく。小さな地響きと揺れが彼の元へと届いた。

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