第2話 さぁ異世界へ行く準備だ

「おぉーい、おーい、ったく……あたしのおっぱいに無銭ダイブ決めてダンマリか、おい、起きろ、高級車につっこませるぞ!」

「んああ……おっぱい」

 俺はガンガンと頭を殴られて、やっと覚醒したようだ。おかしな感覚だ――夢の中で夢が覚める感覚に似てる。

 目の前には、自転車でがっしゃんやっちまったはずのおっぱいが浮かんでいた。何やら申しておるようだ。

「ったく、あんたはおっぱいでしか人を認識できんのか……ま、そうだから、神も願いを叶えてやろうって思ったわけだ」

 うんうんと、ひとり悦に入る控えめおっぱい。お前はいったい誰なんだ。

「あたしか? あたしは転成の女神。あと控えめとか言うな」

 俺の思考を読んでるのか、こりゃ楽ちん。話さなくってもいいもんな。お前等も俺の言葉は勝手に想像しろよ。

「こらこら、いきなりメタいエロゲみたいな話をするんじゃない。どうやらキミはまだまだ状況が飲み込めてないらしいね」

「まぁ、そうだな……俺にわかるのは、ぷかぷか浮かんでるわけだが、この角度だと、あんたのひらひらの隙間から先っぽが……」

 そこまで言った瞬間、俺の首は明後日の方向へ向いていた。

 帰って来い、首――と願って、叶ったのは、数秒後、だったと思う。

「もういいや、もう一回殺したろかと思ったわ……」

「もう一回?」

「はい、キミは死にました。自転車の不幸な事故でね、キミの世界での生は終えたの。本来なら、また同じ世界で、何らかに転成って事になるんだけど、キミのたっての願いを神はずっと聞いてたわ」

「願い……」

 思い至るのはおっぱいしかない。

「んじゃとりあえずもませ……」

 今度は一昨日の方角へ顔が無意識に飛んでいった。

「――あたしの高貴なおっぱいをあんたに揉ませるわけにも見せるわけにもいかないの。つーわけで、キミの願望が生きる世界で役立ってもらいます。丁度その世界では男不足職不足だからね」

 とりあえず行ってみようと、控えめな女神は軽く言った。ちょっとコンビニ行ってくる、くらいのライトワードだ。

「ま、だらだら説明すんのもあれだから、さっさといくわよ」

「そういうならいってみっか…おっぱい揉めないのは心残りだが……」

「大丈夫、そんなあんたにぴったりよ」

 女神はぱちくり目を閉じて、体にまとわりついてる布をゆらした。

「へぇ……俺って何になれるんだろう」

「んふふ、喜びなさい……始終おっぱいを触っていられる、夢の世界と職業よ」

「なん、だと――」

 俺は産まれて、おっぱいをもみたいと願った日以来の衝撃をうける。

 ああ、心が、魂が震えちまったってもんだ。

「そ、あんたはこれから行く――生まれ変わる世界で、ブラ男になります! 安心して、ステータスもそのまま、見た目もそのまま、あんたのまんまスポンとその世界に溶け込めるから!」

「ブラ、おとこ……ブラ男?」

 質問を投げたが、女神はこたえるもんかと体を反らす。

 おお、そのポーズだと、ノーブラのひらひら布に、おっぱいの先っちょのラインがぽちっとくっきり。

「さっさと、いけぇえええええええええっ!!」

 今度こそ、俺の意識は、未来へと殴り飛ばされたようだ。

 これが死ぬってことか、さてはて、うまれかわるってことか。

 物語でよくみる、光の柱や光の道、そんなもんを通る感覚はこれなんだな。

 控えめおっぱいの女神の姿が、どんどんだんだん、小さくなって、視力の限界をこえていく。

「今度あったら、その控えめおっぱい揉んでやる」

 俺は野望を残し、光の根元へ落ちていく。


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