scene3 ゲーセン

 士郎がいつも行くゲームセンターは、駅前アーケードから離れた外環沿いの「ゼガワールド」。二階建てのかなりガラス張りな建物で、敷地の半分はでっかい駐車場という採算取れるんだか取れないんだかわからないつくりになっている。

 一階はクレーンゲームとプリクラ。二階はアーケードゲームと大型筐体。士郎が入り浸っているのは、主に二階で、手を出しているのは格闘ゲームと音ゲー、シューティング、ちょっとだけレースゲームの『首都高ミッドナイト』もやったりする。

 階段を速足にのぼり切ると、いつも顔を合わすおなじみのメンバーがクイズゲームの筐体の前でたむろっているのが見えた。

 いつものおなじみは、中学生の陽介と航平を中心に、奴らのクラスメートだったり、その同級生だったり、さらにその弟の小学生だったり、そのまた同級生だったりと、細かいメンバー構成は毎日ちがう。が、陽介と航平はほぼ毎日いた。が、……。

「お、なんだ、きょうは陽介は? 休みか?」

「あ、士郎」天然パーマの中学生が振り返る。こいつが航平。

「なんでタメ口なんだよ」と今日も頭を小突くが、高校生の士郎相手に敬語を使う気はまったくないらしい。

「それが変なんだよ、士郎。相談にのってくれよ」いつになく真剣な表情で眉根を寄せる航平。士郎はちょっと心配になった。

「どうした? なにかあったのか?」

「陽介のやつから連絡が来なくて」航平は悲しそうな目で士郎を見上げながら唇をかむ。

「ほお、いつからだ?」

「昨日の夕方から」航平は一気に語りだした。「きのうは五時にはここを出たんだけど、陽介の奴はセブンイレブンに寄っていくって言うから別れたんだよ。ほら、いまセブンイレブンで期間限定のアイルーの配信やってて、あいつはそれが欲しくてさ、でもおれはモンハンやらないから。で、そのあと、手に入ったかどうかラインで聞いたんだけど、返事がなくて、いつまでも未読だし。で、夜にメッセージ送ったけど、朝になっても返事がなくて、通話にも出ないし。それで、今日は学校にも来なかったんだ。一応、家からは休むって連絡は来たらしいんだけど。でも、もしかしたら、いま噂になっている連続行方不明事件に巻き込まれたかもれしないんだ」

「連続行方不明事件? なんだそりゃ」士郎は片眉を吊り上げた。

「知っらねえのかよ、しょーがねえなぁ。たまには新聞読めよ、ゲームばっかしてないで」

 なぜここで中学生に説教されなければならないのか、まったく理解できない。第一そういうおまえだって、毎日ゲーセンに入り浸っているじゃねえかよ。

 と、思ったが、ここはひとまず「すんません」と謝罪しておく。「で、なにその事件。有名なのか?」

「ここ最近」航平の隣にいたおでこの広い小学生が口を開いた。黒縁の眼鏡をかけていて、見るからに頭が良さそうな子だ。「正確には五日前からなんですが、この学区内で五人の小学生が行方不明になっています。最初は事故や誘拐が心配されていたのですが、犯人からの身代金の要求がないため、ひとまず営利誘拐の線はないということで警察の見解は落ち着いています」

「五日で五人?」士郎は顎をこすった。「それって毎日一人ペースってことか?」

 航平と眼鏡がだまってうなずく。

「うーん」士郎は唸って考え込む。「でも、陽介の家の人から学校には連絡があったんだよな」

「そうだけど」航平はうつむくが、かわりに隣の眼鏡が答える。

「もし本当に行方不明だとしたら、行方不明ですとは言わないと思います。先生には本当のことを言ったとしても、他の生徒には隠しておくはずです」

「なるほど、おまえ頭いいな」士郎は感心する。「名前は?」

「こういう者です」とプリンターで印刷した名刺を取り出して渡してきた。名刺には名前とメールアドレス、電話番号が記載されている。名前は『土方弓也』となっていた。

「ドカタ・ユミヤか」士郎が読み上げると、航平たちが大爆笑する。小学生どものキンキン耳に来る笑い声が腹に立つ。

「ヒジカタ・ユミヤと申します」ちょっと憤慨した様子でヒジカタ・ユミヤは頬を紅潮させた。その上でふっと肩を落とし、残念そうに告白する。「みんなにはドカッチと呼ばれています」

「あ、おぅ、そうか」士郎は申し訳なさそうにうつむき、「じゃあ、なんて呼べば?」

「ドカッチで結構です」ちょっとした決意を込めてヒジカタ・ユミヤは唇を引き結んだ。

「おう。じゃ、とりあえず陽介の家まで行ってみようぜ。直接お母さんに会って聞いてみようよ。案外風邪でも引いて寝込んでいるだけかもしれねえし」

「だったらなんで、電話しても出ないんだよ」航平が口をとがらす。

 なるほど、それは一理ある。

「じゃあ、昨日の陽介の帰り道をチェックしてみよう。あいつが行ったコンビニはわかるんだろ?」

「それはたぶん。ブックオフの並びの、スポーツジムの向かいだと思う」

「よし、さっそく出発だ」士郎は携帯電話を取り出すと時間を確認した。「みんな一時間くらい平気か。用のあるやつは遠慮なく帰っていいぞ。塾とかあるやつは、ちゃんと行けよ」

 航平にしたがう三人の小学生どもが士郎を見上げてうなずく。帰ろうというやつはいないようだ。みんな陽介の捜索に参加するつもりらしい。

「よし、じゃ、出発だ。航平、案内をたのむぜ」




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