第3話 折れた指揮棒

私が吹奏楽部に入部した時期は、すでに6月も終わりの頃だと記憶している。

丁度その時期は、学校の行事の関係で行進曲(マーチ)の練習をしていることが多かったのです。


最初にやった曲は、忘れもしません。

「士官候補生」という曲です。


簡単な曲なのだが、譜面も読めない、楽器指使いもままならない、音が上手く出せないという三重苦状態の自分にとっては、曲の難しさなんてどうでもイイという状態なのです。さらに新入部員は、「メダリオン」、「君が代」、「ワシントンポスト」等の10曲くらいの譜面を渡されて「吹けるようになっておくように」と、これも「有無を言わさず」なんですね。トランペットの場合、譜面で曲練習より音をいかに出すかの方が大変なので「譜面なんかどうでもいい」という状態だった。


通常のフルバンド編成のトランペット・パートは、1番、2番、3番(4番がある場合もある)と、楽譜も違います。「下手っぴ」は、3番をやらされることが多いのです。プロのオケ(オーケストラ)の場合は、3番が上手いという場合もあるようですが、中学生バンドの場合は、大抵が3番といえば1年生に担当がまわってくる。3番トランペットの楽譜は、ドミソやったら「ド」の担当ということになるんですね。ユニゾンといって、1番2番3番が同じ音程で演奏する場合もありますが、大抵の曲では、低い部分で「ぷ~ぷ~ぷ~!」ばっかり出してるもんだから、面白くはないかというと、実は、そうでもなくピッタリとハモルと気持ち良いのです。そうは、いっても1番トランペットは、憧れでもあるわけです。ただ当時の実力では、吹けるはずもない。

ところで、スーザ、チューバ、ユーホニューム、バリトンというバンド編成の後ろの方で、ごつい巻貝を抱いたような状態で年がら年中「ぶっ、ぶっ、ぶっ、ぶー」という楽器もある。これはこれで面白いんだそうだ。F先生は「違う、違う、違う、そこのペット、もう1回!」という調子で、いつもどうり「折れた指揮棒」が飛んでくる。


トランペットの場合、1箇所でも間違うとすぐに判ってしまうので、誤魔化しなんてのは通用しない。そういう意味では、あまり叱られることの少ない後ろの大巻貝連中が羨ましい時期もありました。


そんな訳で「士官候補生」を聴くと当時の情景を思い出しますから、音楽の力ってすごいなぁと思います。

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